第36話 信仰
いつか人は死ぬ。
天主様と呼ばれる私も、所詮現れては消えてゆく小さな小さな命の一つに過ぎないのだと。
エテルナも同じ、世界を構成するパーツのほんの一欠片なのだと、知った。
…体が軽い。
もう、遥か空にあるという国にたどり着いたのだろうか。
手を動かせるのに気づき、そっと目を開けた。
…が、視界のすべてが白く、何も見えない。
すると、どこからか声が聞こえてくる。
「キミはまだ滅びる時ではない…元の世界へと帰るんだ」
その言葉に掴まれてぐっと引き戻されるように、また世界は暗くなり、ずっしりと身体の重みを感じるようになった。
今の声は誰だ、という疑問はなぜか浮かばない。
私が知っていて当然な気がしたからだ。
「て、天主…様…?」
目を開くと、元の世界に戻っており、エテルナが涙なみだにこちらを覗く。
「生きていてくれたのですね…!」
彼女は私に抱き付きたいが、身分の関係でそれができないもどかしさを抱えながらそう言った。
もう一度周りを見回す…
どうやら先ほどの怪物は居なくなったようだ。
「私が出来る限りの魔法で治療を施しました。敵は召喚した騎士だけでなんとか倒しきり、そしてしばらくすると、天主様が起き上がったのです」
「私が目覚めるのを待っていてくれたのか…」
「そうです!天主様を捨てて逃げるなんて事は、できません」
彼女がそこまで私に信頼を寄せている人物だとは思っていなかった。
そう思ったのも、記憶がないからかもしれないが…
国を、彼女を、もう二度とこんな事にはさせないと、心の中でそっと誓う。
エテルナの頬に伝う涙を私が手で拭い、優しい目を向ける。
「…もう一度、この世界をやり直そう」
今の私に掛けられる言葉は、これくらいだ。
「はい、天主様…!」
そう言う彼女の姿からは、信頼というよりも、一種の信仰のようなものが感じ取れた。