第30話 無意味な抵抗
「本日はトルペ鉄道をご利用いただき、誠にありがとうございます。次は地獄、地獄に止まります」
モンスターたちの歩みは止まらない。
「どうしよう、ここは逃げる場所もないし、戦うしかない…」
ハルカは手を構えた。
「しかし戦闘で電車を壊せば、命の危険もあります」
レイアがそう告げると、全員の緊張は高まる。
「電車を壊さずに勝つ方法…」
炎を使えばなんか爆発しそうだし、雷もそうだし…
「あっそうだ!水魔法とかどうかな!」
「ここに水魔法を使える人はいないわよ…」
「ええっ!そんな…」
考えている間にもモンスターは這い寄ってくる。
「うまく行くかわかりませんが、やってみます」
レイアが周りを確認し、動きを極限まで抑え…敵を斬る。
「わあ!すごぉぉぉい!」
「…うまく行くのも、今のうちのようです」
敵はこちらの動きを学習し、行動を変え始める。
一箇所に集まり、積み上がっていくモンスター。
「な、なになに!?」
「このモンスターたちの正体が何か、わかるかなぁ」
車掌…いや、人型のモンスターが再び現れる。
「みーんな、さっきまで生きていた人間なの!素敵じゃない?」
「なっ…!!」
「人をモンスターに変える!?そんな魔法、聞いたことがありません…」
「じ、じゃあ今まで斬ったモンスターは…」
考えたくない。
同じ人間を殺したなんて事実。
信じたくない。
「そんな甘い思考じゃ、この先生きてけないよ?」
「だ、誰?」
ハルカは頭の中で響く声に耳を傾ける。
「私はあなたの本当の人格…悪魔としてふさわしい方の、ハルカよ」
「これが…わたし…!?」
驚きでいっぱいの顔を前に、悪魔は言葉を続ける。
「今まさにピンチでしょう?…ミリアとあなたの為に、力を貸してあげる。さあ、立ちなさい」
それを聞いて、よろめきながらも、立ち上がる。
「条件は…?」
「ないわ」
力を貸してくれるならもらいたい。
でも、条件のない交渉なんてあるの…?
「これは交渉なんかじゃない、ただの私の善意よ」
ハルカの疑いの心がますます大きくなる。
「私の友達を傷つけるんなら、力なんか欲しくないっ!」
「はぁ…でも、力を受け取らないとその友達は死んじゃう。」
「どっちを選ぶべきか、わかりきっているわよね」
でも…でも…
いや…
私なら…抑えられる…
この頭の中の悪魔を!
もう二度と、悪いやつに屈しはしない!
「やっぱり、欲しい…」
「ふふ、いい判断よ。受け取って」
その瞬間、ハルカは黒い翼が生え、悪魔の姿へと変身する。
「は、ハルカ!?」
「今度は、大丈夫だよ!」
悪魔とは違う、明るく元気な声は皆を安心させる。
力を手にして、身体にその使い方が刻まれた。
塊となったモンスターめがけ、指先を集中させる。
「はあっ!」
闇の魔弾はモンスターたちを貫き、さらに蝕んでいく。
「はははっ、やっと本気を出してきたね」
高笑いが電車内に響き渡る。
その後の少しの静けさが、戦いはまだ始まったばかりだと告げた。