第19話 決戦
…ソウル。
そのモンスターは100年前から存在し、世界を幾度も恐怖に陥れた。
普段はプレテキテラのあった場所に住んでいるが、時々人の住む草原などに現れる。
そして、立ち向かった者達は全員生還できなかったという。
ハルカは、ここで冒険が終わらない事を願っていた。
もちろん、他の者たちもそう思っている。
今から始まる戦いで、命を落とす者がいるかもしれない…。
…全員は覚悟を決めて、ソウルの前に立ちはだかった。
「……」
ソウルの姿は翼を生やした人間のようで、頭は眩しく光っていて、直視ができない。
全身が黒く包まれ、手足が霊のように透けている。
「………」
ハルカの額から、汗が流れる。
「…行こう」
そう言ったラフィンもまた、内心では怯えていた。
「…みんな、順番に攻撃して、効く攻撃を探しましょ」
ミリアが細かく指示を出す。
「最初は…私!」
ザッザッ!
ハルカが飛び出していく。
(お父さん…お母さん…お兄ちゃん…私、頑張るから、見ていて…!)
ハルカが深く息を吸い、両手を構えた。
それをミリアは固唾をのんで見守る。
(ハルカ、がんばって)
ハルカは神経を研ぎ澄まし、手に魔力を集中させる。
キッとソウルを睨む。
「…バルデニテンステンスッ!」
…
……
…炎が出てこない。
「な、なんで…」
ハルカだけでなく、全員は気付いた。
ソウルの近くでは魔法が使えないのだ。
全員は絶望する。
「どうしよう…魔法が使えないなんて…このままじゃ、王国が滅んじゃう…」
ラフィンはこれまでにないほどの、悲しみの顔を見せた。
…すると、リリアンが鍔に美しい装飾が施された二つの剣を取り出し、ソウルに向かって高く飛び上がった。
「えっ…リリアン!?待って!!」
ハルカはリリアンが死んでしまうのではないかと思い、追いかける。
(私だって、飛べるはず!)
全身に力を込めて高くジャンプすると、段々とリリアンに追い付いてきた。
(…よし…!)
体が浮いているのがわかった。
飛ぶことができたのだ。
ハルカは必死に手を伸ばし、リリアンの腕を掴む。
「リリアン!やめて!お願い!」
…リリアンは首を横に振った。
掴んだ腕から手が離れていってしまう。
「いや!リリアン!」
ハルカの言葉を聞かず、リリアンがソウルに剣を降り下ろした。
「……!…!」
…空間が歪む。
これがソウルの声なのだろうか。
その瞬間、ソウルにリリアンが薙ぎ払われた。
腕から生えたトゲがリリアンの身体を裂く。
「リリアンッ!!」
それを見たハルカが必死で助けに行った。
ソウルは傷が全て治り、次の攻撃に備える。
ハルカが、落ちていくリリアンの両手を掴んで、地上にゆっくり降りた。
「リリアン!リリアン!」
リリアンは気を失っている。
「生きてる…よね…!ね!?」
「うーん…」
すぐに目を覚ましたが、傷は深い。
「もう無茶しないでね」
ハルカは、リリアンを力強く抱きしめていると、気付いた。
傷がもう治ってきている事に。
「わ!ちょっと!あぶない!」
ハルカがあまりにも強く押すので、二人は倒れた。
リリアンはハルカの下敷きになってしまった。
「ごめんけど、下敷きになってくれて助かった…」
ハルカはリリアンの上で寝転んでいる。
「痛いから降りてくれないかな…」
「はーい」
「遊んでる場合じゃないわ。こっちに向かって来てる」
遠くからゆっくりとソウルが近づいてくる。
「戦える人は戦って」
ミリアの指示で、魔法以外で戦えるレイアとリリアンが、ソウルの方へ向かっていった。
レイアがソウルに斬りかかる。
「秘技・楼月」
美しい斬撃で、ソウルは動けなくなった。
「やーっ!」
そして、リリアンがソウルを斬り刻む。
大きな傷を負い、何もできなくなったソウルに、光が集まっていく。
自爆をするつもりだ。
巻き込まれないよう急いでハルカ達のもとへ戻る。
「ソウルがもうすぐ爆発する。逃げて」
レイアの言葉を聞いたハルカ達は、急いで部屋に帰った。
帰ってすぐに、外から爆発音がした。
見ると、ソウルの姿は無かった。
「やった…倒したみたい!」
ハルカ達は一つの試練を乗り越えた。
「みんな!お疲れ様!」
今夜はお祝いパーティーだ。