season1
1 本編
この世界には何故神がいる?
何故世界を分断した?
全て覆うほどの雨を降らせたら?
海をひっくり返すと?
空が飛べるようになったら?
地面を1つにしても、空を繋げても
海を渡らせようとも、天候を変えても
人も国も1つにはならなかったのに?
人と神に何の違いがある?
ーいつまで、見て見ぬ振りをするー
"起きて…。"
"ねぇ、いつまで?器はいつまで?"
"わからない。でも…か…だから…"
"そうか…時が…と…"
"早く…起きないかな?"
"……あ…もう少し…"
"力を…こ…溜めないと…"
"この子は…か……こ……だか…ら"
誰?君は誰?
俺を知ってる?俺は君を知ってる?
"起きて!!"
ハッと目を覚ましたが、まだ夢なのか現実なのかの判断がつかない。
こっちが夢か?あの夢の声の主は誰だ…?
ドンドンッ!!
"おっそーい!真昼!早く起きてよ!もう!"
まあ…間違いなくこの声ではなかったな。
まだ温い布団をかき分けて、布団の中に顔を潜らせ
ドアに向かって返事をする。
「あー、行くから」
"ご飯冷めちゃうからね!"
この声の主は、蛍。
小さい頃からこの古屋で一緒に暮らしてきた。
金色の髪に銀色の目を持っている。
俺からすると羨ましい位の眩しさだけど…
その容姿のせいでなかなか人前に出ることはできない。
のそのそと食事の場に現れた俺に笑いかけ
"おはよう"と鈴を鳴らすような声で話しかけてきた
この男は鈴雪。
白に青を溶かしたような色の髪をして
不老不死だと疑われるような歳の取り方をする。
"さ!真昼も食べて!あーもう!髪の毛寝癖が!"
「いいって。」
俺は自分の髪が嫌いだ。
夜のように真っ黒で、癖っぽくて。
目も真っ黒だから、蛍と並ぶとまさに光と闇。
それが嫌でたまらず、鈴雪に髪を染める粉をかけてほしいと言ったのだが
全く相手にされなかった。
"蛍。今日は街で日長から花市が来るそうだよ…行きたいかな?"
"え!?鈴雪さん、私…降りていいの?"
"真昼を付き添いで連れて行くんだよ。それから姿は変えてから行くこと。二時間だけね"
「え?俺?」
"やっっったあ!久しぶりの街だ!花市か〜半年前は行かれなかったから…切花も買っていい?"
"もちろん。楽しんでおいで。"
「え、あの…俺も?」
"いってらっしゃい。2人とも。"
まだあくびが止まらない俺を無理やり蛍が引っ張る
「くぁ…ねっむ」
"もう!真昼は何時間寝るつもりなの!?早く行こうよ!私先に滑って降りちゃうよ?"
「そんなん遅いじゃん…飛ぶよ」
"真昼。昼間に飛ぶのはやめなさい"
「ちぇっ…じゃあ蛍、先どーぞ」
"はーい"
雪の上を移動するのに、氷の板を使って降りて行く。
登りは大変だけど…。行きはこれのおかげですぐに着く
吹雪を抜け、雪が舞う程度になったら街が見える。
山の麓に着き、そこから雪の上を歩き
沢山の人が住む通りに足を踏み入れる。
俺たちの住む国は1年の半分は冬だ。
《無音》と名乗る神が収めている国《寒凪》
氷を切り売りしたり、工芸品、芸能品が優れており
民は雪、氷、湿、星、そして闇の《リース》を使う。
あ、リースってのは…自然の中にも沢山の神がいる。
精霊と呼ぶ人たちもいるが、あくまで神。
人ならざるものだ。
その力を貸してもらい、人でありながら神に少し近づくことをリースと呼ぶ。
力そのものを総称していると言ってもいい。
これは各国にいくつも種類があり
混ぜ合わせて使う事もできる為、能力にかなりの差が出る。
その国特有のリースはその国で使うのが1番力を発揮する。
鈴雪は雪のリースを使うので、夏の国に行くと
使えなくはないが、力としてはイマイチになる。
だが冬の国での能力は段違いで、蛍を隠す為に山の上に古屋を建て、毎日朝から晩まで吹雪を降らせているのは
鈴雪のリースなのだ。
蛍の容姿を変化させたり、そういったのは《マギー》というおまじないの一種だ。
これはリースを使える者であれば、少しの勉強と努力
そして繊細さがあれば使えるようになる。
12歳の時にリースを受ける《源》と呼ばれる儀式を行う。稀にリースを受け取る事が叶わない人もいるが
大抵の人は受け取れる。俺が受けたリースは風。
冬の国である寒凪では珍しい為、他所の国から入ってきた移民の子と言われている。
蛍は光を操る一族、星芒家の生き残りではないかと鈴雪は言う。
蛍には家族もいなく、それを確かめる術もない。
昔話、伝説、お伽噺の一種になりつつある。
蛍は滅多にリースを使うこともないので俺も見たことが2度しかない。
光が一度に降り注ぎ、光で弓や剣を生み出せる。
飛び道具から接近戦までこなせるようになっていて
光を飛ばすことも出来る。
昔、星芒家はそうした武器で戦っていたようで
わずかな人数でもかなりの戦闘力を発揮していたと言う。
そんな一族の生き残りである蛍は、街へ降りる事がほとんどない。一年に一度か二度。
理由は神、それに晦冥家に見つかってはいけないからだ
星芒家は、国がまだ分かれず一つだった頃、王として君臨し権力にあぐらをかいた晦冥家と対を為す存在だったこと。
晦冥家を倒せるのは星芒家しかない。との戦時的理由でことごとく先の戦争で騙し討ちや罠にかかって処刑された。
神達も星芒家の光と予知夢を恐れ
国が4つに分かれてからも、予言者として囲われたり
その未知数の能力から奪い合いになったという。
そうしてるうちに星芒家は夢のような話となった。
今、星芒家の生き残りがこの世界に何人いるかはわからない。もしかしたら蛍はもう最後の星芒家なのかもしれない。
だから正体がバレないよう、鈴雪の言いつけを蛍はしっかり守っていた。
姿を変えて街に降りるが、長くは持たない為
一年のほとんどを古屋で過ごすしかない。
友達もいなく、話し相手といえば俺や鈴雪だけ。
毎日同じように過ごしてる蛍にとって
街へ降りれる日は貴重だった。
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"ねえ、真昼…最近さ、夢って見る?"
板に乗りながら、先を行く蛍が大きな声で聞いてくる
「……見る」
"そうだよね…たまになんか…喋ってない?"
「見ても覚えてないからな」
"気をつけてね。引っ張られないように"
この警告が、大事な事はわかっている。
蛍の予知夢だから。
「引っ張られるってどうゆうこと?」
"呼ばれてるでしょ。"
「わかんねえんだよな。」
"とにかく…聞こえないフリをして"
「…夢の中で覚えてたらな」
そうこうしてる間に街へ辿り着く。
ここで蛍はマギーで姿を変える。
街へ行くときは必ず髪を青にして、目を黒くする。
これが一般的な寒凪に住む人の容姿だ。
今日は《日長》から花市がやってきてる為
街はすごい賑わいで、ごった返している。
日長は春の国と呼ばれ、花や果実、茶や菓子などの食文化も根強い。
蛍が花を見てる間、ボケっと噴水の側に座る。
その時。
"無音様だ!"
"無音様が何故こんな通りまで…?"
しまった と思った。
蛍を連れているときに、神達とすれ違ってはいけないのだ。
無音が花市に来るなんて聞いたことねえぞ。
慌てて蛍に駆け寄り腕を持つ。
「蛍」"…うん"
さっと路地裏に入り、人のいない道へ向かう。
どっちだ?どっちから来るんだ?
まずいぞ。蛍と長い時間隠れる事は出来ねえし…
かと言って無音に悟られてはならない。
風で飛ぶか…?いや、無音に見られると厄介だ
とりあえず少しここに隠れーー
"貴様"
ドクンッと心臓がなる。
背筋が凍るように寒い。
耳鳴りがする。
"おい、耳はついてるように見えるが…飾りか?小僧"
ゆっくりと振り返り、無音と目が合う。
黒い髪を後ろで縛り、片目は義眼。
長ったらしい着物のような服を着て、草履履き。
蛍をさっと後ろに隠し、ゆっくりと息をする。
喉が凍るような寒さの中
「申し訳ありません。無音様。」
"ほお。口も聞けたようだな。妙な気配を感じて寄ってみたのだが…して…ん?貴様らは日長からやってきたのか?"
「作用です」
"はっ、よくもそんな嘘をつけるものだ。日長の物が儂の冷気に震えもせずに耐えられるわけがあるまい。何故嘘をついた?何を隠している?"
「申し訳ありません…姉が花を見たいと言って買いに来たのですが、姉は病がちで人混みになれておらず…口も聞けぬ姉でありますので…お目汚しになるだけかと存じます」
"ほお…花なんぞ…腹の足しにはならんものを…女はすぐ愛でたがるな。まあよい…して貴様は、そうか…そういうことか。"
"貴様嘘はいけないぞ。その姉とやらは姿を変えておるな。なんだ…??…もしや…"
まずい、まずいぞ。
こいつ1人で何の話してんだ?
とりあえず蛍を逃さねえと…。
汗が滲む、鼓動がデカくて止まらない。
くそっ…
俺を嘲笑うかのように少し笑った無音。
その無音が指を少し、ほんの少し動かした瞬間
"無音様"
鈴を転がしたような声で
無音の後ろにスッと立ってる、いや、立っていた?
それはよく知る声、よく知る顔。
「す…」名前を呼ぼうとして、蛍に袖を引かれた。
そうだ、名前を漏らしては いけない 。
"ちっ…貴様、まだ生きてたのか。"
"無音様。貴方様はお変わりないようで"
舌打ちをしながら無音が振り返り、鈴雪の横を通り過ぎていく。
"星芒…だろう?その娘…上手く隠していたものだな。だがな、ここで露見したからには奪い合いになるぞ。貴様で守れるのか?"
"何のことやら…"
"まさかとは思うが、鍵はその小僧か。小賢しい"
そう言った瞬間に無音はふっと細い吹雪を呼ぶ。
竜巻のようになり、辺りは急激に冷える
"真昼、急いで。蛍を連れて飛ぶんだ。古屋に帰り荷物をまとめておきなさい。早く!"
俺は蛍を連れ、すごい速さで古屋は飛ぶ。
「飛ばせ、風爾!」
どんなに急いでも歩けばここから1時間。
飛べば30分か。絶望感のある顔を浮かべた蛍を抱え
風爾と呼ぶ風のリースを使い古屋まで飛ばす。
"真昼…どうしよう…私…"
「今いろいろ言うな!大丈夫だよ!」
"鈴雪さん帰ってくるよね?"
「ああ!とりあえず荷物まとめろな!」
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"ちっ、逃したか。"
"無音様、あの子には何の罪もありませんので。どうかそっとしておいて下さいな"
"鈴雪、貴様…度が過ぎるぞ。あの様子では両者とも何一つ本当のことを知らんのではないか?"
"……"
"図星のようだな。貴様は本当に狡猾な男だな。吐き気がする。せめて、童に代わり復讐してやろう"
ゴゴゴ…ゴゴ…
地鳴りのような音がする。
"無音様。貴方に私を止める事はできませんよ。まして、あの2人を屠ることも叶わない……実戦は好きじゃないのです。未だにゾッとする…"
"いつまで儂を童だと思っておるのだ。今や神にまでなったのだ。ここは冬の国ぞ、鈴雪。儂は冬の神。
いくら貴様が強かろうと、地の利はこちらにあるのだ。"
"まあそれは…やってみればわかるのでは?"
糸がプツっと切れた音がした瞬間
ものすごい量の雪と雪がぶつかり合う。
風が吹き荒れ、雪が吹き荒れ、雷が発生するかのような摩擦の音がする。
キイィィィィン!!
"木枯らし、出てこい"
無音の声に呼応して、雪を纏った旋風が現れる。
小さく黒い旋風は赤い目を光らせ
あっという間に大きくなり鈴雪を飲み込む。
"木枯らし、育て。"
旋風が立ち上がるように上に伸び横に伸びる。
鈴雪は飲み込まれたまま摩擦と轟音に包まれる。
"音。頼むよ"
鈴雪が鈴を鳴らすような声で一言
そう発した次の瞬間には旋風は消えていた。
轟音も摩擦音も何も聞こえない。
しん…と辺りが静まり返る。
そこへいく粒かの雪が舞う。
初めより小さくなった旋風がキュイーンと小さな音を立て無音のそばに戻ってくる。
"まだ…やりますか?"
"ちっ、相変わらず癪に触る男だな。初めからこうなるとはわかっておったわ。"
(やはり無傷か。5割でこの程度の足止めしかできぬとは…本気でやっても怪しいものがあるな)
"さて私は家に戻ります。追ってこないことを祈ります。"
"貴様あの2人をどうするつもりなのだ。育て上げたその後の話だ。守り切れるのか?貴様だけで神達から。
いくら貴様が時の守護だったと言っても、あの童にどこまで期待してるんだ。"
"無音様。詮索が過ぎます。くだらないと思われるでしょうが、私はそんな高尚なことも欲深い思いもありませんよ。ただ…おかしいとは思いませんか?人ならざる我らが結局は人に踊らされていませんか?私が…彼らをきっと…"
"貴様!…まさかとは思うが楽果に会うつもりか!?楽果だけはならん!協定で決まっておるであろう!"
"どうしたと言うのです、無音様。顔が真っ青ですよ"
"ふざけるな!楽果など…貴様!正気か!?"
"憶測がすぎますよ。私にそんな権限はない。まして会う手立てもない。"
"今より一刻の後、貴様らを手配する…悪く思うな、危険な思想は早めに摘むしかないのだ。民が平穏に暮らすためだ。早く行け。これが最後だ"
鈴雪は小さく笑いお辞儀をして
"音"と呼ぶと雪に包まれ消えた。
"未だに音を連れているのか…ちっ、どこまでも嫌な男だな……木枯らし。帰るぞ"
無音もそのまま雪に吸い込まれ、消えた。
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"今、なんて…?"
"蛍、真昼、今日から旅に出ておくれ。私とは別行動だ。"
「は?なんで?」
"真昼、わかってるだろ?"
"私のせい…?バレちゃったから…?"
"蛍、私から全ては話せない。時間もないんだ。よく聞いてね?君は…君は光の一族だ。彼らの歴史を調べる旅に出るんだ。それで全て変わる。決して君のせいではない。この世界のせいだ。"
「俺は?俺に目的は?あんの?」
"真昼、君は蛍を守るんだ。そうして蛍が答えを導いたら…君もきっと…"
「答えが出る?別にそもそも俺は疑問もそんなないし答えはいらないんだけど」
"じゃあ、人探しを頼もうかな。楽果を探しておくれ"
「れっか…?なんだそれ、誰?どこにいるんだよ?」
"会えば必ずわかる。さ、兵が来る。結界破りを連れてきたようだ。行きなさい。いつかまた会える、元気で"
「蛍、仕方ねえから行こう。どのみち今逃げないと捕まる」"鈴雪さん…"
"蛍、大丈夫だよ。大丈夫だ。……真昼、いいね?頼んだよ"
「ああ…」
"音"
そうして何年も過ごしてきた家、家族を置いて
飛び出すように出てきたのだ。
鈴雪が呼んだ"音"に雪と一緒に連れていかれ
ワープでもするかのように飛んで下された先は
秋の国だった。
泣きじゃくる蛍が落ち着くまで、山へテントを張ることにした。
色とりどりの木々が生えていて、見たことのない木の実をつけている。
キノコという食べ物も生えているが、食べたことが無いのでやめた。
蛍がメソメソしなくなったのは夜になる頃だったため
その日はそのテントで休むことにした。
リーン…リーン…と虫が鳴き、雪の音はしない。
寒凪にあるものがなく、ないものがこの秋の国《宵宵》(ヨイヨイ)だ。
"真昼?明日は街に行くよね?"
「まあ、そうだな。情報集めないといけねえし…でもずっとここにいることは出来ないだろ?マギーで蛍も姿を変えて宿へ行こう。」
"バレない?"
「風爾に幕を張らせる。なるべく高台で上の階の部屋にしてもらおう。数日ごとに移動するけど…」
"面倒くさくない?"
「…蛍。俺はめんどくさがりだけどな。お前の事を放るような奴じゃねえし、家族だろ。大丈夫。帰れるまでの辛抱だ」
"うん…そうかな…"