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 名倉たちと相談して、俺たちは一度会って話すことにした。とは言え話し合うことは余り無かった。お祓いをするって話にはすぐなった。

 問題は誰にしてももらうか、だ。

 こんな異常な話だからその辺のお寺や神社に任せる訳にもいかない、かといって誰か当てが有るわけでもなかった。

 すったもんだの挙げ句、例の祠を作った連中に頼むのが良かろうとなったが、今度は祠の管理者が誰なのかで困った。

 これが雲をつかむような話でどうにも分からない。

 あの辺の役所に電話して話を聞いてみたら、国の所有だと言われた。

 ならばと、祠の担当について問い合わせたが、これがさっぱり要領を得ない。

 そんなものはない。

 心当たりがない。

 挙げ句にはイタズラ電話はよせ、怒られる始末だった。

 

「もう一度行ってみるしかないな。

行って、祠の写真を突きつけて直談判するんだ!」


 最後には名倉がキレ気味に怒鳴り始めた。

 いや、最初はみんな尻込みしたさ。

 でも、他に良い考えも出てこない。

 その内、昼間なら大丈夫じゃないかって話になって、行くことにした。

 

「嫌よ。私、やっぱり行かない!」


 例の森の入り口まで来たところで、真弓がごねた。

 車の助手席に座ったまま、頑として祠に行くことを拒否した。押し問答しても時間の無駄なので仕方なしで、真弓は車に残したまま、3人で森の中に入ることにした。

 森は昼間でも結構暗かった。

 細い獣道をちょっと外れるとすぐに木や茂みで視界が利かなくなる。

 例の女が突然現れるんじゃないかって、俺たちはビビりまくっていた。

 そんなこんなで、やっとのことで祠のところまで来た。


 なかった。


 祠どころか、それを囲っていた柵もなにもかもきれいさっぱりなかった。地面には杭を打ちつけていた痕跡すら残ってなかったよ。


 さすがに途方にくれた。


 溺れていて、必死に掴んだロープがぶっつり切れたような感覚かな。

 名倉なんかちょっとパニックになって地べたにへたりこんで泣き出しちまった。

 とはいえ、こんなところでぐずぐずしているわけには行かない。

 俺と桜井は名倉を引きずるようにして車へ戻った。

 戻ってみると、今度は車で待っているはずの真弓が居なくなっていた。

 まったく、信じられないよ。

 何から何までうまく行かない。まるで何かに呪われているって思ったね。まあ、実際、エライのに呪われてたわけだが……

 車の回りにいないかと探しながら名前を呼んだが、答えはなかった。


「おーーい、真弓。いないのか?」


 どこがで鳥の鳴き声がした。空を見ると大分、陽が傾いていた。ここで夜を迎えるのは勘弁しい。途方にくれていると携帯が鳴った。

 真弓からだった。


ゴホ ゴボボ


 出たとたん、水が湧くような音がした。


「もしもし、もしもし、真弓?」

「…… よ ……」

「なんだって? 良く聞こえない。大丈夫か?」


 優香里のことが頭をよぎる。フロントガラスに激突したあの顔……


「真弓よ。大丈夫よ」


 カメラのピントが急にあったように真弓の声が聞こえてきて、俺は内心ほっとした。


「どうしたんだ? 今いったいどこにいるんだ」

「近くの神社よ」

「神社? なんでそんなところにいるんだ?」

「実はね。車で待ってたら地元の人が声をかけてきたのよ。話をしていたらそれならお祓いができる人を知ってるって案内してくれたの」

「本当かよ?」

「本当よ。近くよ。すぐお祓いをやってくれるそうだから、みんな来てよ」

 



 真弓の案内で俺たちはその神社に行くことにした。車を10分ほど走らせると鳥居が見えてきた。

 半分朽ちかけたような木の鳥居。額はとうの昔に脱落してしまったのかなくなっている。だから神社の名前も分からなかった。


「本当にこんなところでお祓いなんてやってくれるのかよ」


 桜井の言葉に俺も同感だった。お祓いどころか人がいるのかすら怪しい。とは言え、もう俺たちに頼れる当てはないのだ。

 鳥居の先には細い砂利道が続いていた。両脇は竹やぶが壁のように立ち塞がっていた。覗いてみると割れて折れた竹が幾重にも折り重なり、藪の中は夜のように暗かった。人の手入れが全く入っていないのは一目瞭然だった。

 とにかく砂利道を3人で進む。

 視界が急に開けた。

 正面に社殿。右手に社務所。手前には水の枯れた手水場があった。


「おーーい、真弓ーー!」


 俺たちは真弓の名前を呼んだが神社は死んだように反応がなかった。


「真弓。 こんにちは。誰かいませんか?」


 社務所の入口の戸を開けて声をかけたが、出迎えたのカビ臭い淀んだ空気だけだった。

 埃がうず高く積もった廊下には何年も人が立ち寄っていないことを物語っていた。

 俺は真弓に電話をしてみることにした。出ないとしても近くにいれば着信音で分かると思ったからだ。


 ヴゥーーン、というバイブ音が微かに聞こえてきた。俺たち3人はキョロキョロと音の出所を探る。その内、3人の視線が社殿へと向けられた。

 音はそこから伝わってくるようだった。

 社殿は重い板の扉で閉ざされていた。名倉が、ちょうど奴が一番近かったんだ、扉を開けようとしたが鍵がかかっているようで開かなかった。

 名倉は真弓の名前を呼びながら扉を叩いた。

 たが、反応は相変わらず無かった。板の割れ目を見つけた名倉は、そこから社殿の中を覗いてみた。

 「おっ、いる」、と奴は言った。


「いるのか?」

「いる。背中向けて座ってる。

おーーい、ここを開けてくれ」


 名倉はドンドンと扉を叩いて大声で叫んだ。


「お祓いしてるんじゃないのか?」

「いや。一人しかいないぞ。お祓いをやってるようには見えないけど。

おおーい、開けてくれよ。一人で抜け駆けするなよ! 俺もお祓いを……」


バリバリ


 突然、扉を突き破り腕が飛び出てきた。


「うっわぁ!?」

 

 突然出てきた腕に手を引っ張られ名倉が悲鳴を上げた。一気に肩口まで社殿に引き込まれて、必死に戸板に手をつき抵抗していた。なにがなんだか状況も分からないまま、俺たちは名倉の肩や腹をつかんで引っ張った。大の男3人がかりでも引き戻せない凄い力だった。

 戸板がメリメリと軋んだ。

 全体重をかけて引っ張る。文字通り、必死だった。


「イダダ、痛ェ、うあぁぁ」

 

ブツゥン


 嫌な音がしたと思ったら急に力が抜け、俺たち3人はもつれあいながら社殿の階段から後ろへ転げ落ちた。


「あ、いっでェ、痛い、痛い」


 名倉の泣き声が夕暮れの境内に響き渡った。妙に顔が塗るつく。拭って見ると手が真っ赤に染まっていた。


「腕がっ! 俺の腕がぁ、痛い、痛い、痛い」


 名倉の右腕が肘のちょっと先のところで千切れてなくなっていた。叫び、振り回す度に辺りに血を振り撒いている。


「あはは、あはははは」


 女の甲高い笑い声が響き渡ったかと思うと、社殿の扉がゆっくりと開く。

 ぬるりと女が現れた。正確に言うなら、女の上半身が、だ。


「あは、あは、うはあ、あはははは」


 開いた扉。床に這いつくばる女は狂ったように笑っていた。ズルズルズルと6本の腕を器用に蠢かしながら社殿から這いずり出てきた。


 下半身を見たものは必ず死ぬ

 

 その言葉が頭に浮かび上がった。

 俺は泣き叫ぶ名倉を引っ掴むと叫んだ。


「逃げるぞ!」


 俺と桜井は二人して名倉を半ば担ぐようにして砂利道を逃げる。


 ジャ、ジャ、ジャ、ジャと砂利を踏みしめる音。それをなにかを引きずるような音が追いかけてくる。


      ジャーー

   ジャーー

ジャーー


 音はどんどん大きく、迫ってくる。振り向いて見る余裕なんて無かった。ただ、もう無我夢中で車まで走った。

 後部座席に名倉と自分を放り込むのと桜井が車を発進させるのはほとんど同時だった。




2021/10/03 初稿

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