95話
とりあえずあとでまた、キビを買ってこよう。でも、今度は誰もいない森の中で作ろう。
「大丈夫です。あの、皆さんが駆けつけてくれたおかげで、きっと、逃げて行ったんだと思います。あ、ありがとうございましたっ」
深々と頭を下げて、ダッシュでその場を逃げる。
ごめんなさい。ごめんなさい。
本当に私はろくなことをしない。
「なぁ、なにかあの坊主、フェンリルに食わせてなかったか?」
「ああ、投げてたな。それを食べたらフェンリルが逃げていった?」
「何かモンスターを退治するアイテムでも持っていたのか?」
「いや、でもフェンリルレベルのモンスターを退治するアイテムなんて……」
「俺、ギルドで見たよ。あの坊主、サージス様とシャル様と一緒にいた」
「なんだって?じゃぁ、噂の黒目か」
「噂?なんだ、その噂って」
「ああ、もしかして千年草の?超鑑定能力の少年の噂か?だとしたら、フェンリルを追い払うドロップ品を見つけて持っていても不思議じゃないのか」
「もしかしたら、フェンリルが現れて、退治しに来てくれたのか?」
「襲われていたのではなく、やっつけに来てくれていた?」
なんだか、まだ人々がざわざわとしている。なんだろう?
ちらりと逃げながら後ろを振り向くと、皆の目が私に向いていた。
何を話ているのか分からないけれど、あんなに私に注目してるってことは、私の話?
うわーん。ごめんなさい。ごめんなさい。
顔を隠したいけれど、何もないので、左手で持っていた雪平鍋を頭に乗せ、少しだけ前にかたむけ顔はかくれないけど、頭を隠して逃げる。
とりあえず、キビだ。キビを買っておかないと。あとは砂糖。
買い物を済まして、山に視線を向ける。
サージスさんたちがモンスター討伐に向かった山。
「え?」
煙が上がっている。
火魔法を誰かが使って、山が燃え始めた?森の中で火魔法を使うなんてそんなタブーを犯した人がいる?
それとも、火魔法しかきかないようなモンスターがいるの?
どちらにしても、山が燃えてる。まずい。モンスター退治どころじゃないよ。サージスさんたちも燃えちゃうんじゃない?
いや、水魔法を使える人がいれば消す?
山を見ながらギルドに向かって歩いていくと、ギルドからわらわらと人が出てきた。
「山が燃えてる、水魔法スキル持ちを集めて!」
「それから、燃え広がるのを抑えるために木を切り倒せる人間も」
バタバタと慌てて人が動き回る。
火が消えなくなって森が焼けてしまう、どんどんと炎が広がっていく様子を想像して背筋が寒くなる。
厄災……という言葉が頭をよぎる。
厄災が起きても、私には関係ないと思っていた。思っていたけれど……。
パーティーの仲間にしてくれたサージスさんやシャルは、その厄災……いや厄災じゃないかもしれないけど、とにかく、危険な場所で戦っている。
私だけ、何も出来ないなんて……どうせ何もできないからなんて……。
無能スキルしかないって、それを言い訳にして、逃げてるだけなんじゃない?
何か私にもできることがないか。
ご覧いただきありがとうございます。
うむ。なんだか、リオの噂に尾ひれがついて……
知らないのはリオだけ……
いや、もう「リオ様」だからね。なれなれしく話しかけられないというか
なれなれしく話かけたら、シャルが黙っていない……wwww
というか、王都を楽しむはどうした……(´◉◞౪◟◉)