90和
石作りの簡素な建物。殺気だった人たちが必死に薬草の山に向かっている。
えーっと、もしかしてギルド?
「次の中継地点に飛ぶ前に、仕事を一つ頼まれた。山の中腹のダンジョンからモンスターが出てきてしまったらしい。その討伐に向かう」
え?モンスターがダンジョンから出てきた?
通常モンスターはダンジョンの中でしか生息していない。外に出てくるとはよほどのことが起きない限りないはずだ。
「厄災……?」
そのよほどのことが起きているのかと、思わず身震いする。
「ああ、大丈夫だリオ。単に、皆が千年草目当てで薬草をドロップするモンスターが出るダンジョンに行ったせいだ。誰も入らなくなったダンジョンでモンスターの数が増えすぎただけ。てなわけで、この後は持ち回りでダンジョンのモンスター駆除に冒険者を派遣するらしいが、王都へモンスターが下りてくる前に外に出たものは始末しないといけないからな」
サージスさんの大きな手が私の頭を撫でた。
「で、なんで僕が呼ばれるの?サージスさん一人で行けば?」
「いやいや、往復する時間がもったいないだろう。ほら、お前ならマーキングしてある場所と、見える場所の影に飛べるじゃん。見えるだろ、あの山のあの辺」
サージスさんが、ギルドの入り口から外を指さす。
王都の街の向こうに山が確かに見える。
シャルとサージスさんが二人で行くの?
「あの、僕は……?」
ダンジョンの外でモンスターを倒しても何もドロップしない。つまり、荷運者としての仕事はない。
「ここで待ってろ」
サージさんがポンポンと私の頭を叩く。
待ってろって……。
あ、そうだ。
ちらりとカウンターの向こう側。薬草が積みあがっているところに視線を向けると、その瞬間、がしっと頬っぺたをつかまれ、顔の向きを戻された。
「リオ、千年草探しを手伝おうとか思ってないよね?」
真正面、30センチの距離にシャルの怒った顔。
思ってました!思ってたけど、なんで怒られるんだろう?
「あ、そうか、そうだ。お世話になってるハルお姉さんの手伝いもしてないのに、別のギルドではお手伝いしたなんて知られたら、ハルお姉さんはショックだよね……」
「はぁー、もうだめ、サージスさん、リオの思考回路が分からない……せっかく王都に来たんだから、待ってる間に好きなことすればいいってなんで伝わらない?」
え?好きなこと?
「おう、そうだぞ。王都には立派な武器屋や防具屋があるぞ。それから、鍛冶屋もいいところがある。伝説の鍛冶師の弟子のハンノマの店とかもあるんだぞ」
シャルが頭を抱えた。
「あー、もう、サージスさんに声をかけた僕が馬鹿だったよ、せっかく王都に来たんだから、楽しめって!」
楽しむ?
「あ、もしかして、王都には私の見たことのないドロップ大辞典の最新版が」
ワクワクしてきた。そうだよね、王都だもん。王都。
「ギルドの資料室にも読んだことのない本が……」
目がキラキラしてる自信がある。というのに、シャルが私の鼻をつまんで、くいっと少し上に持ち上げた。
ふふふ、令和令和。9令和……。忘れず和にしたよ。
王都と地方都市……。
感覚としては、名古屋と秋葉原くらいの違いか。
(だから、それ、リオ的発想な)
グッズと言えば……あ、流石にこの先の話は活動報告に書くことにする。
ではでは!王都をお楽しみくださいね、リオ……。
それよりも、ハンノマの店が?!
ハンノマの店が?!
え?
どういうことなの?
えっと、そのうち、出会うの?ねぇ、出会っちゃうの?
とか思った人もいるでしょう。
「セバス」と一緒です。
どこにでも出てきます設定になりました。
凄腕鍛冶師の名前はハンノマ。
有能執事の名前はセバス。
それから、公爵家は○マルク(現在ロマルク、ハマルク、ゴマルクが出ている。数字+マルクシリーズですよ)