9話
「私の処分はギルド長から下ると思うけれど、たぶん減給ね……」
お姉さんが額の間のしわをぐりぐりと伸ばしてから、ロードグリのメンバーを見る。
「ドロップ品の横取りで降格1、荷運者を置いて逃げた罪で降格2、ここまででC級からF級へのランク落ち。さらに荷運者へ支払うべきお金の横領で、降格1。すでに一番したのF級まで下がっているため冒険者の資格取り消し」
お姉さんの言葉に、フューゴさんが叫んだ。
「ま、ま、待ってくれ、それだけは勘弁してくれ!ランク落ちは落ちてもまた上がることができるが、資格がなくなったら……!」
フューゴさんの言葉にお姉さんが首を横に振る。
「それから、ギルドに嘘を報告した罪で降格1、これもすでに資格取り消しのため、禁固3年の強制労働」
「ちょ、ちょっと待ってよ、それって、前科持ちになるってこと?いやよ、腕に入れ墨されるんでしょ?そんなことになったら、この先人に後ろ指刺されて生きて行かなくちゃならないじゃないっ!」
アリシアさんが泣きそうな顔になる。
「後ろ指ね。さすのは平気なのに、刺されるのは嫌というのは我儘じゃないのか?なぁ?散々後ろ指を指して馬鹿にしてきたんだろう?」
サージスさんがアリシアさんを睨み付ける。
「はっ。面白いくらいに騙しやすかったのに、こんなことで足元を救われるとはね……」
マイルズ君の言葉に、つぶやきが漏れた。
「え……騙し?僕は……騙されてたの?」
「は?何言ってんだ、リオ、お前……今の話聞いて、気が付くだろう、普通!」
サージスさんの声が耳に入ってこない。
「やめて、助けて、離して!」
「くそ、俺はこんなところで終わる人間じゃなかったはずなのに」
「強制労働……はは」
ロードグリのメンバーが縄を打たれ引っ張られていく姿。
「ま、待って!」
思わず、引っ張っているギルド職員の前に出て止める。
「なんだよ、恨み言を言わないと気が済まないか?」
「さんざん笑った仕返しに笑う気?」
フューゴさんの顔もアリシアさんの顔も口を閉じたままのマイルズ君の顔も、涙でにじんでよく見ることができない。
「だ、騙したって本当なの?」
僕の言葉に周りの人間も静かになった。
「僕、荷運者の仕事をするのが初めてで、無能スキルしかないし、なかなか仕事が見つからないし……そんな時に、アリシアさんに声をかけてもらえて、嬉しかったんだ……」
アリシアさんの真っ赤な口紅を塗った口の動きを今でも覚えている。「うちの荷運者に雇ってあげてもいいわよ」と。
「アリシアさんは、いつも、僕がいる位置から遠いところのモンスターを狙って倒してる。間違えて僕に魔法が当たらないようにしてくれてたんだ……」
「そ、それは……」
アリシアさんが何か言いたげに口を開こうとした。
「フューゴさんは、僕の片方だけ黒い目になる無能スキルの話を聞いて、すぐにボクをクロと呼び始めたけれど……。他の冒険者が面白がって僕の目を無理にのぞき込もうとするときにはいつも止めてくれた……見ても面白くねーぞ。呪われるかもしれねーぞって……」
髪の毛をひっつかまれて痛かったけれど、それ以上に痛めつけることは一度もされなかった。無能スキル持ち役立たずと石をなげられたり殴られたりしたこともあったのに。フューゴさんは殴らなかった。
「そんなのな……」
フューゴさんが下を向いてしまった。
「あと、マイルズ君は、いつも僕が怪我をするとすぐに回復してくれた……」
「お金はもらっていたけどね」
「うん……でも、ポーションを買うよりも安く済んだし……足をひねったり、他の人が気が付かない怪我でも、すぐに気が付いて声をかけてくれた」
マイルズ君がバツの悪そうな顔をする。
「僕、ロードグリに雇ってもらえたから、初めてダンジョンに入ることができたし、ダンジョンでいっぱいいろいろ経験して勉強になったし……感謝しかなくて、それに……」
3か月見ていたから分かる。
主人公、超お人よしのぼんやりです。
('ω')ノ