74話
本日2話目
寝る間も惜しんで……いや、しっかり寝ていたから、惜しんではないけれど。時間を節約して頑張ってた。同時に3つのことをこなして……。
すごく、すごく頑張って……。
私、無能スキルの私は、同時に5つくらいのことやらないと、頑張るうちに入らない?
ど、どうしよう、無、無理かも。どうしましょう、頑張るなんて二度と口にしません。ああああああ。
絶望的な気持ちになった私の鼻を、シャルがつまんだ。
「あれは、頑張ってるんじゃない、楽しんでるんだ。サージスさんは楽しんでるの」
「へ?」
「僕だってそう。理想とする自分に近づくための訓練は、楽しい」
「たのし……い?」
シャルがふっと息を吐き出す。
「あー、もう、話はあとだ。さっさと拾い集めるぞ!もうサージスさん姿が見えない」
はっ。
ダンジョンの中を見ると、1本道の1階層、ずっと先まで見渡せるはずなのに、サージスさんの姿は確かに見えなかった。
「リオはそっち側半分、僕はこっち側半分集めながら進むぞ」
「は、はいっ」
「危なくなったら助けを呼べ、いや、リオは馬鹿だから、危ないが分からないんだったな。サージスさんはモンスターをせん滅して進んでるはずだから、うち漏らしたモンスターがいたら声をかけろ」
「あの、でも1階層2階層のモンスターなら大丈夫です……」
シャルがぎろりとドロップ品を拾って鞄に入れながら私をにらんだ。
「で、ですから、えっと、3階層か4階層、もうこれ以上無理だって思ったら、シャルに助けてもらっていいですか?」
「もちろんだ。よわっちぃリオは僕が守ってやらないとな」
にぃっとシャルが嬉しそうな顔をする。
ずきんとまた、胸の奥が痛む。
弱い、弱い。守ってもらわないと、助けてもらわないと……情けない。無能スキルしかないから……って、言い訳なのかも。
剣は持てた。当たり前だけど、私にだって、剣は持てるし、へっぴり腰になったとしてもふることはできる。魔法は、スキルが無いから使えないけど、魔道具で魔法を出すものだってある。荷運び人なんだから冒険者じゃないからって、ドロップ品のことばかり一生懸命勉強したけど、足りない。頑張ってなんて全然なかった自分に気が付いて、本当、シャルが頑張るって言葉も頑張ってるって口だけの人間が嫌いっていうのも今になってよくわかる。
「リオ」
突然目の前にシャルの顔が現れた。
「守られてばかりなんて情けないとか思ってない?」
へ?
「僕がリオを守りたいし、守られてればいいんだ」
「で、でも……」
「言っておくけどね、僕の守るは、逃げる一択だから」
は?
「男なら逃げずに戦えとか言われたって、逃げるから」
うん。そりゃ、転移できちゃうすごいスキルがあるんだもん。
すいません、全話の番号間違えてました。こちらが本当の74話です。
さて、物語には
「逃げるのは卑怯」
「逃げずに戦う姿は美しい」
「逃げるのは恥」
「逃げないことこそ正義」
みたいな、そんな印象を受ける作品はたくさんありますが。
逃げるのも一つの才能ですからね。
ブラック企業、いじめ、色々なことから上手に逃げられるのはいいことです。
精神も命も削ってずっと戦い続ける……とか、ナニソレ?だと思います。
逃げるヒーロー。……いや、ヒーローになれるのか……(´・ω・`)?