74話
「よし、じゃぁ、ギルドで拠点探しもしないといけないから、とっとと調味料ゲットして戻るぞ!危なくなったらすぐに腕輪を使うんだぞ」
サージスさんがくれた、ダンジョンの入り口に戻る移転の腕輪をとんっと叩く。
「危なくなったら僕が飛ぶ」
シャルが私の手を取った。
サージスさんがダンジョンの中に飛び込み、猛烈に……目にもとまらぬ速さでガンガンモンスターを倒していく。
「あの、シャル、大丈夫です」
シャルの手を外す。
「は?嫌なの?」
いつもみたいに、むっとした表情を想像してシャルの顔を見ると、悲しそうな顔をしていた。
ああ、私ったら。
せっかく危ないときは助けてあげると言ってるシャルに、何の説明もせずに大丈夫って厚意を拒否するようなことを言ってしまったんだ。
気が利かないよね。私……。ちゃんと説明すれば、シャルに悲しそうな顔をさせなくて済んだのに。
「えっと、あの、2階層までは自分の身を守ることは問題なくできます」
シャルがいつもの無表情に戻る。
「それから、サージスさんのモンスターをやっつけるスピードが速すぎて……えーっと、シャルも拾い集めるのを手伝ってほしいです。とりあえず、ドロップ品は全部、確認せずに鞄の中に回収しちゃっていいので、あとで仕分けます」
シャルがすでにドロップ品があちこちに散らばりまくっているダンジョン内部を見てはぁーっと小さくため息をついた。
「下層はこれだから面倒だよね……。上層階ならモンスターが強くなる分、雑魚モンスターの数は絞られるのに」
その下層モンスターですら、私は倒すことができない……。と、ちょっと胸の奥が痛む。
やっぱり、剣を少しは使えるようになった方がいいんじゃないだろうか。そうすれば、下層ダンジョンに【味噌】を一人で取りに来られるようになるってことだよね……。
「あー、くそっ」
シャルがイライラした声を出して、ダンジョンに足を踏み入れる。
何をイライラしているのでしょう。
「ぱっぱと飛んで集めるには数が多すぎるな。スキルの使える回数が少ないせいだ……。もっと回数が使えるように訓練しないと……」
シャルのつぶやきに、さらに胸の奥がつきんと痛んだ。
「シャルのようにすごいスキルを持っていても……」
訓練?まだまだ、駄目だと思うことがあるの?
「何?」
「ううん、あの、僕はシャルの何倍も頑張らないといけないと……思って……」
シャルが虫けらを見るような目をした。
そ、そうですよね。はい。無能スキル持ちだから、そんなの当たり前のことで。いちいち頑張るなんて口にするなんて……頑張ってるアピールみたいでみっともない……。
ああ、シャルが頑張るっていうのが嫌いってそういうことなのかな。当たり前のことをしているだけで、頑張ってますって言うの……確かにおかしいのかも。
「はぁ?僕は、別に頑張ったりしないけど。訓練なんて、頑張らなくたってできることでしょう?サージスさんが、食べながらスクワットしながら体拭いてたの見た?あれ、頑張ってると思う?」
え?昨日のサージスさん?
頑張る……とは。
なんかな。難しい話をシャルがし始めたぞ。
シャル的な解釈なので人それぞれね。
なんか、ダンジョンもぐったら潜ったで、何やら見つけちゃうみたいです。
うー、サクサク話が進まないー。
何見つけるのか、お楽しみに……。
そろそろ大事件、いわゆる厄災の片りんを見せたいし、サージスさんのスキルの正体も明かしたいのに……先延ばしになっておる……おかしい。どうして、こうなった。