64話
本日3話目です
「あの、この価格ですけど」
「ん?不満か?ネースに言われただけじゃねぇ。お前は価値が分かるようだからな、変な駆け引きなしでマックスの値段を提示したんだがな」
「いえ、不満じゃなくて、不安です、えっと、無理してないですか?高すぎます、ギルドでの買い取り価格の倍とか、もらい過ぎです」
店員さんがネースさんの顔をちらりと見た。
「ギルドの買い取り価格が安いのはな、ありゃ保証料込みだからな。絶対に騙されない保証、どんなに需要がない場合でも最低価格で買い取ってくれる保証、紹介者がなくとも買い取ってくれる保証とかな。店じゃぁ、価値が分からなきゃ買いたたかれる可能性がある、必要のない物は買い取りを拒否される、怪しい人間からは買い取らないなど……逆にいえば、価値が分かっていて信用してもらえるようになりゃぁ店で売った方が高く買ってもらえるのは当たり前のことだ。店としても、ギルドから仕入れるより安く優先的に入手できるならありがてぇからな」
「そうなんですか?あの……本当に、えっと、無理した金額じゃなくて?それから、あの、僕のこと信用してもらえるんですか?」
違う。私のことを信用しているわけじゃない。
「あ、違いますよね、信用しているのはS級冒険者のサージスさんやシャルのことで……」
ネースさんと店員さんが変な顔をしている。
そりゃそうだよね。いきなりちょっと愚痴っぽいこと聞かされても。
「だ、大丈夫です、あの、僕、落ち込んでないです。これから僕も信用してもらえるように頑張ろうって思いますし、頑張ります!だから、えっと、これからもよろしくお願いしますっ!」
ぺこりと丁寧に頭を下げる。
ひそひそとネースさんと店員さんが言葉を交わしている。
「おい、何を言ってるのかよくわかんねぇぞ?魔道具だけじゃなくて防具の知識も確かなんだろう?」
「はい、鑑定スキルもないのに正確ですし、鑑定スキルでは分からないレア物まで見抜きましたし、それに……」
「噂はきいてる。黒目持ちが千年草を発見したって、こいつのことだろう?なんでそんなすげぇことができるのにこんなこと言ってんだ?」
「なんか、前のパーティーメンバーに横領の濡れ衣を着せられてギルドに突き出され、ギルド職員もパーティーの訴えを信じてひどい対応をしたとか……いや、私も何も知らないだろうと侮って接客したので同罪ですが……」
「ははっ、お前、成長したんじゃねーか?物を売りつけるのが仕事じゃねーって。売るのは信用だ。信用を失えば客も失う」
「はい。よくわかりました。リオ様は私を親切な店員だと言ってくださいました。信じられることの嬉しさや、信用を裏切ってはいけないという責任感と……いろいろと教えていただきました。感謝しかありません。私は……ですから、せめてもの恩返しとして、リオ様が騙されないように皆さんに頭を下げていくつもりです」
「あいよ、分かった。まぁサージスのパーティーメンバーに悪さしようってやつはいないだろうが、こっちも目を光らせておくよ」
「お願いします」
店を出て次は雑貨屋へ連れて行ってくれるらしい。
私とネースさんの背中を見つめながら、店員さんがふっと口元に笑みを浮かべていた。
「あのボンクラ後継ぎ、ちっとは使い物になりそうになってきたんじゃねぇかな。報告しとくか……」
もちろん、私とネースさんの耳には届かなかった。
くふふ。ここにきて、何やらネースにも秘密めいたものが?
誰に何を報告されるのか!
読んでくださりありがとうございます(*'ω'*)
そうです。実はモブだと思われていたお店の親切な店員さんが、ちょっとだけモブ以上になりました。へへへ。まさか?!でしょ?
はい。活躍をお楽しみに。どう、絡んでくるのかなぁー。