60話
「はっ、黒……噂の」
「こ、これはこれは、いらっしゃいませ、どうぞ、どうぞ!」
2人の店員さんが何かに気が付いたように息をのむと、慌てて私に頭を下げて店内へと案内をしようとし始める。
あ、もしかしてサージスさんのパーティーに入ったことがもう噂に?そんなわけないよね。さすがに……。じゃぁ、噂ってなんだろう?
「えーっと、あの、彼にお願いしたいんです……」
箒を持っていた親切な店員さんに顔をむける。
「え?」
驚いた顔をする親切な店員さん。
「あ、ご、ごめんなさい、わ、わがままですよね、大事な掃除の時間を邪魔しちゃ駄目ですよね……あ、あの」
しまった。私みたいな場違いな人間が店員さんを選ぶような真似。でも、緊張するから少しでも知った人がいいって思っちゃって。
「ネースを?」
「あのような失礼を働いたのに?」
ネースさんっていうのか。
「いえ、あの、とても親切にしていただいて……えっと、またお願いしたいと思って……」
頭の上にのっている雪平鍋をぽんぽんと軽くたたいてにこりと笑う。
この鍋本当に便利なんです。軽くて全然頭にのせていても負担にならないし。あ、防具として役にたったことは全くないですけど……。
「し、親切?失礼ではなく親切?」
店員さんが驚いてネースの顔を見る。
「大丈夫ですよ、私が、ネースに変わって末永く担当させていただきます。さぁ、どうぞ」
もう一人の店員さんがどうぞどうぞと手店内へと向ける。
「おい、ずるいだろう。担当は先輩である俺がする。お前は店長にリオ様がいらっしゃったと伝えてこい」
え?あれ?
「あの、掃除の邪魔になってしまっていたら、掃除が終わるまで待ちますから、えっと、ネースさん、お願いできませんか?」
誰が私の担当になるかでもめている。きっと、私みたいな荷運者の担当になるなんて誰だって嫌なんだろうな。
そりゃそうだよね。これからも防具らしい防具を買う予定ないし……お金にならないもん。あ、でも、そうすると……。
「ネースさんも、迷惑ですよね……。あの、ご、ごめんなさ……」
親切だからってずうずうしかったよね。
ああ、私の馬鹿っ。
情けなくて涙が出そう。慌てて立ち去ろうとしたところ、ネースさんが私の目の前に立ち、深々と頭を下げた。
「いらっしゃいませ、リオ様」
え?いいの?
別の店員さんがさっとネースさんの箒を受け取り、ネースさんの背中をぽんっとたたいた。
「本日は、どのような物をお探しで」
ネースさんが顔をあげると、目じりにきらりと光るものが。
「こんな私をお許しくださったリオ様のために、精一杯お力にならせていただきたいと思います」
許す?え?ああ、聞き間違いかな。私が許してもらったってことかな?ごめんなさい。許してくれてありがとうございます。
ご覧いただきありがとうございます。
えーっと、店員さんの目に、きらりと
商人は情報大事なので、当然すでに噂は耳にしておりますよ。