6話
「あなたに紹介できるパーティーはないわ」
石造りの丈夫なだけが取り柄のおしゃれとはかけ離れた街のギルドへと足を運ぶ。
壁には木の板が設置され、そこに手のひらサイズの依頼書と呼ばれる紙が所狭しと貼りつけられている。
「あの、確かにあまりたくさんの物は運べないですけど、1階層なら自分の身を護ることくらいはできますし、F級パーティーのお手伝いなら……」
無能スキルしかないから、すぐに新しいパーティーが見つかるとは思ってないけれど。
ギルドの受付カウンターのお姉さんは私の顔を見ただけで、条件も聞かずに冷たく言葉を発する。
ギルド職員になるには、それなりのスキルを持った者が何年か冒険者として活躍した後だと聞いたことがある。
このお姉さんもきっとすごいスキルを持っているのだろう。
私のような無能スキル持ちとは話をするのも嫌なのかもしれない。だけれど、働けないと、困る。
「片方が黒目、あなたクロでしょう?」
お姉さんがさげすむような目を私に向けた。
ギルドカードにはクロではなくリオの名前が記されているはずだ。
「偽名を使っても無駄よ。その目を見ればすぐにばれるんだから」
偽名?私は自分からクロだと名乗ったことなんてないのに……。
くすくすと背後から笑い声が聞こえてきた。
「雇われたパーティーのドロップ品を横領したと被害届が出ているわ」
「お、横領?僕は、そんなことしたことありませんっ」
被害届?誰が?
「あはははっ、いい気味だ」
「本当。今の顔見たか?」
くすくす笑いが多きくなり振り返ると、冒険者パーティーロードグリのメンバーが入り口付近の壁にもたれて立っていた。
「ああ、フェーズさん、お願いします。僕はそんなことはしないと、説明してください」
フェーズさんに声をかけると、つかつかと歩いてきて私の横に並んだ。
「クロ、お前さ、もう忘れたの?被害届誰が出したと思うんだ?」
忘れた?
「そうよ。ちゃんと、あなたが横領しようとした現場を目撃した証人もいるのよ?」
アリシアさんが壁にもたれたまま声を発する。
ざわつくギルドの建物内。距離もあるというのに、アリシアさんの声ははっきりと耳に届く。
受付のお姉さんがふっと笑った。
「そうね。こちらでも調査したわ。あなたがダンジョン前で、ドロップ品を分けている姿を目撃している人がいたこと、ロードグリのメンバーが荷物を持って行こうとしたら、奪い返そうとしたところもね」
え?
あれが、横領?
だって、私、ちゃんと説明したよ……。
あれはサージスさんが倒したモンスターからドロップしたものだって……。
「じゃぁな!荷運者、いや、元荷運者か?はははははっ」
フューズさんが受付を後にし、アリシアさんとマイルズ君と合流すると、併設されている食堂のテーブルに腰かけるのが見えた。
「まぁ、そういうことで。ドロップ品の横領は荷運者の資格はく奪処分。あなたに紹介できる仕事は今後どのギルドでもありません」
お姉さんの言葉に、涙が零れ落ちる。
「こ、困ります、だって、僕、働かないと、働かないと」
ボロボロと涙が落ちるのを、お姉さんが迷惑そうな顔をしてみている。
「さっさとギルドから出て行きなさい」
しっしと追い立てるようなしぐさをされる。