5話
「何?赤だし味噌?聞いたことがない……けれど、調味料って、塩とか胡椒とか……高くてなかなか買うことができないやつだよね?」
本当かな?
っていうか、今の文字何?
「クロ、お前生きてたのか」
「フューゴさん?」
ロードグリの3人が目の前にいた。
「律儀に荷物を持ってきてるわ、褒めてあげる。くすくす。しっかし、汚いわね。血だらけ。だっさ」
アリシアさんに褒めてほめてもらえた。でも、私の力じゃないんだよね。サージスさんに助けてもらったおかげで……。
「痛そうだね。スキル回復魔法【治癒レベル1】」
マイルズ君が私の傷の手当てをしてくれた。
「ありがとう」
「タダじゃないよ。今日の報酬は無しだから」
マイルズ君が鞄を持ち上げる。
「じゃぁ、売りに行きましょう。大した額にはならなくてもないよりましだものねぇ~」
アリシアさんが、仕分けしておいたサージスさんの得たドロップ品に目を止めた。
「何、ここにもあるじゃない。まさか、独り占めしようとしたんじゃないでしょうね?よこしなさいっ!」
手を伸ばして、指輪など小さなドロップ品5つを手に取る。
「待って、それは、私を助けてくれた人が倒したモンスターからのドロップ品で、ちゃんと渡さないと……」
慌ててアリシアさんに手を伸ばす。
「あら、綺麗な指輪ね。これなんて売るのがもったいないわねぇ。いくらになるかしら。安かったら売らずに使おうかな」
伸ばした手がアリシアさんに届く前に、ヒューゴさんが私の肩を押す。
「クロ、できそこないのお前を雇ってんの俺たちだよな?俺たちの荷物をもう運べないと言いながら、他の奴の荷物を運ぶっておかしくねぇか?」
「あ……」
言われてみれば、そうなのかも。
「そうですねぇ、我々の荷運者ですから、運んだものはロードグリの物ですよね?」
マイルズ君の言葉に下を向くと、腕にはまっている転送の腕輪が目に入る。
連絡が来るはず。命を助けてもらって、その上預かったドロップ品まで無くしたなんて言えるわけない。
「か、返してください。それは、ちゃんと渡さないといけないものなんです。み、皆さんが逃げた後で、荷物はそれ以上増えなかったですし」
私の言葉に、フィーゴがカッとなって私の襟首をつかみ上げた。
「逃げた?もう一回言ってみろ、俺たちがみっともなくモンスターから逃げたって言いふらすつもりか?」
ちがう……。
「恩知らずね。クロみたいな無能荷運者を雇い続けてあげたっていうのに。恩をあだで返すつもり?」
アリシアさんがイライラした声を出す。
喉が閉まって苦しい。でも、言わなくちゃ。私だけの問題じゃないんだから。
「返してください……」
「あら?まだ何か隠してるの?」
アリシアさんが私の足元にあった宝箱を手に取る。
「げ、糞じゃないのっ!なんの嫌がらせよ!こんなもの持って帰ってきて。無能が!無駄に荷物を増やしてたの?」
アリシアさんが宝箱を私の顔に向かって投げつける。
違う、あれは私が鞄に入れたんじゃない……。
「クビにしましょう」
マイルズくんが冷たい口調でそういうと、背を向けて歩き出した。
「そうね。ばいばい、クロ」
フィーゴが投げ捨てるように手を離した。
「げほ、げほ、げほ」
しまっていた首に一度に空気が入ってきて思わずむせる。
クビ?
うそ、どうしよう。私が愚図なばかりに、3人を怒らせてしまった。せっかく非力で無能スキルしか持ってない私を荷運者として雇ってくれたのに……。
ぼんやりとしゃがみ込む私の手に、コツンと何かが触れた。
「ああ、宝箱……か」
糞と呼ばれるものが入っているけれど。もし、本当に調味料なら食べられるってことだよね。
お金もろくにない上に、仕事も失ってしまった。食料は貴重だ。
宝箱を拾うと、ポケットに入れる。手のひらサイズの宝箱だからポケットに十分収まる。
「ギルドに行って、新しく雇ってくれるパーティーを探さないと」
早く見つかるといいな……。