45話
「どんな危険があったって、お前がいれば大丈夫だろ」
その言葉にシャルの顔に文字が浮かぶ【デレ】
デレ?
扉のように開いた壁の向こう側に足を踏み入れる。私は抱えられたままだ。えーっと、降ろすっていう選択肢は……?
「なんじゃこりゃ」
「書斎……いや、図書館みたいですね」
シャルの言葉に、サージスさんが私をやっとおろした。
とりあえずモンスターの姿もないし、入ったとたんに発動するトラップもないと確認したからだ。
部屋?3人が入って座るのがやっとというほどの小さな部屋の壁にはぐるりと本棚があり、本の背表紙が並んでいる。
圧倒される……。
本の背表紙……まだ、スキルジャパニーズアイが発動中なので文字が浮かんで見える。
すべての本の背に文字が……。こんなことは初めてだ。ジャパニーズアイが発動していても、目にうつっている物の一つか二つに文字が出ればいい方だったのに、本のすべてに文字が浮かんでいる……。
【お茶のたて方】【妖怪全集】【浴衣の着付け】【里芋レシピ】……
分からない言葉ばかりだ。お茶をたてるってどういう意味?妖怪って何?浴衣って?里芋……芋の種類かな?
「あ……」
シャルが私を握る手にぐっと力をいれ、本の一つに手を伸ばした。
本がトラップ発動のスイッチになっているかもしれないと思ってのことだろう。本を抜き取っても何も起きないことにホッとシャルが息を吐き出し、私の手を離した。
「なんだ、こりゃ。さっぱり読めないぞ?」
サージスさんも本を一つ取ってパラパラし始めている。
「そうですね、背表紙の文字も全く分かりません。文字……そういえば、マムを倒して現れる窪みに似た形のありますね。ということはあのくぼみは文字だったということですかね」
シャルが背表紙の一つを指さす。【ゴマ油の効能】とジャパニーズアイで表示されている。【開けゴマ】のゴマの部分が確かに同じだ。
「うーん、とりあえずモンスターを倒して現れたってことは、この部屋にあるもの全部がドロップ品ってことか?さすがにこれだけ持って帰れないというか、読めない本なんて持って帰っても仕方がないよなぁ……」
「いえ、レアドロップ品コレクターに高く売れるでしょうね」
シャルとサージスさんの会話を無視して、背表紙を追う。
【ツンデレ、ヤンデレ、クーデレ、キレデレ、ニャンデレ、デレ一覧表】
あ、知ってる言葉だ。いや、知らないけれど、ハルお姉さんにツンデレ、シャルにヤンデレって出てた。
手を伸ばしかけて、動きが止まる。その3つ隣の本は本当に知っている言葉だったからだ。