44話
「残念ながら、毎回毎回、金色に光って、何も出さない。いや、あれが出ておしまい」
サージスさんが奥の壁に現れた窪みを指さした。
「何あれ?」
「さぁな?高名な鑑定士が鑑定しても何も情報が得られなかったから、何でもないんだろうな」
ダンジョンの岩の壁には、剣を叩きつけて傷つけたような窪みが4つ。
「ったく、もしかしてリオはドロップ品マニアなわけ?」
シャルのでこピンが飛んできた。
痛いんだよ、地味に。と、片目をつむる。【スキルジャパニーズアイ発動】
【ドロップ品オタク】
へ?私の手に文字が浮かび上がる。何?オタクって?
「あー、もうモンスターでないし、解除解除」
シャルがロープをほどいた。【ヤンデレ】シャルにも相変わらず謎の言葉。【どや顔】サージスさんの顔の横の表示の、この「どや」って何だろう?
「あ」
壁に現れたへこみにも文字が浮かんでいる。遠いから文字が読めない。近くに行かなきゃ。
「ちょ、リオ、お前、急に走り出すな、そんなにボクと距離取りたいわけ?って、転んだ、馬鹿なの?」
転んでひざぶつけた。痛い。
膝を擦り擦りしてると、お腹に太い腕が回った。
「帰ったらポーションやる」
持ち上げられた。もうちょっとで文字が読める。サージスさんの腕をするりと抜けだし、壁のくぼみに向かって3歩ほど歩いたところでまた捕獲された。
「ほれ、帰るぞ」
【開けゴマ】
「開けゴマ?」
ゴマってそもそも何?開けって、何を?
「なんだ?」
サージスさんが私に聞くけど、私もよくわからない。
「あ、あれ!」
シャルが声をあげる。
ゴゴゴゴゴと、大きな音を立てて、岩の壁だと思っていたダンジョンの奥が、まるでとびらのように左右に開き始めた。
「お、おい、リオ、お前何をした?」
私を腕に抱えたまま、サージスさんが開いた扉に向かって走り出した。
「馬鹿ばっかりか!罠だったらどうするのっ!」
シャルがぱっと目の前に現れて両手をふさいでゆく手を阻んだ。
「うお、そうだった。そうだった。距離を取って様子を見てから」
「ったく、今のでスキル使えるのが後2回になった。部屋に入って罠だったときはすぐに飛び出すから。ボクから二人とも離れないでよ」
「よしきた!」
サージスさんがシャルのお腹にも手を回してもう片方に抱える。
「馬鹿なの、ねぇ、両手ふさいじゃって、剣持てないでしょう?」
シャルがぺしっとサージスさんの手をはたいた。なんだ。シャルは私が無能スキルだから言葉遣いが厳しいのかと思ったら、そうじゃないんだ。
シャルが私の手を握った。
あ、指先が冷たい。もしかして緊張してる?
「危険な罠があるかもしれないから、行かないって選択肢もある」
シャルの言葉にサージスさんが笑い飛ばした。