38話
ダメ元で聞いてみようか。
ギルドの3階の資料室から1階の受付カウンターへと足を運ぶ。
バタバタと忙しそうにスタッフが駆けまわっているけれど、冒険者の姿はほとんどない。珍しい。いつも数十人の冒険者が出入りしているのに。
「すいませ、あの、お願いがあって」
カウンターに顔を出すとすぐに、30手前くらいの男のスタッフがこちらに顔を向けた。
「なんだ?今忙しいんだ。千年草がドロップするシーズンに入ったから。今は千年草以外の話は聞けない」
え?そうなの?
「ご、ごめんなさい……」
知らなかった。だからギルドにも人が少ないんだ。3か月しかドロップしないって話だったもんね。
「分かったらさっさと出て行け」
しっしと迷惑そうに追いやられる。どうしようか。売ってそうな店に並んでるかな。武器屋とか見てこようかな。
「あーっ、あーっ、待って、待って、リオ、探してたのよっ!」
がしっと肩をつかまれる。
「え?あ、ハルお姉さん」
「ちょっと、あんたも何追い返してるのよっ!伝えてあったでしょう?黒目の少年が来たら長官室に通してって」
ハルお姉さんが男のスタッフに文句を言う。
「え?いや、まさか、その子が?」
「あの、僕……長官室って……」
何か悪いことしたかな?……横領の疑いは晴れたと思うんだけれど……。他に、何かしでかした記憶はないけれど……。あ、まさか、通称「糞」をS級冒険者に飲ませた罪で……とか……。
「ほら、呼ばれた。行くよ」
パッと目の前にシャルが現れ私の腕をつかんだ。
「シャル、あなたがどうして」
ハルお姉さんは、シャルのことも知っているみたいだ。
「ちょ、リオを連れて行くの?まさか、サージスさんが……」
そうか。サージスさん、S級冒険者の荷運者だもんね、シャル。そりゃハルお姉さんも知っていて当然か。
「あの子は一体なんだ?どうしてシャル様があの子を連れて行こうとしているんだ?」
「その前に、長官が用事があるってどういうことだろう」
ざわざわとギルド内のざわめきを聞く間もなく、気がつけば景色が変わっていた。
「これ、転移?すごい……」
目の前に広がるのはごつごつとしたむき出しの岩肌。
昼間のはずなんだけれどダンジョンの中はいつも夕暮れ時のように薄暗い。いや、灯りもないのにいつも薄明るいというべきなのか。
「絶対、ボクと離れるな」
シャルが私の手とシャルの手をロープでぐるぐる巻きにした。
ああ、やっぱり私何か知らない間に罪を犯したんだ。これ、犯罪者が連行されるときのアレみたいだもん。