36話
あっという間に移動できるなんて。荷運者として最高のスキルじゃないだろうか。
「荷物がいっぱいになったら、いったんダンジョンの外に出て荷物を置いてきて、またサージスさんの元に戻って荷物を運べるってことですよね、すごいなぁ」
怪力系スキルも目じゃないほどたくさんの荷物を運べるよね。
あ、でもスキルって使用回数に制限とかもあるんだっけ。だから、深層に行ってからしか運ばないってことなのかな?
「そうだ、ボクのスキルはすごい」
うんうんと、頷く。
「だから、年上だからって威張るな」
威張らないけれど。というか、威張れるような立場じゃないし。素直に頷いておく。
「ボクの分の食事も用意しろ」
それはもちろん。材料費がかからない食事ならいくらだって作るよ。
パーティーの仲間になれば当然……だけれど、えーっと、糞とか木の根とかその辺で拾った葉っぱとか……そんなのばかりでも怒らないかな……。
「あと」
シャルがぷいっと顔を反らした。
すぐに頷かなかったのが気に入らなかったのかな。
「困ったときは呼べ。ボクならすぐに行ける」
「困ったとき?」
どういう時だろう?
首をかしげる。いくらすぐに来られるからて、何かしてる時に呼ばれても迷惑だよね。
シャルにはすることあるだろうし。
「えっと、大丈夫です。あの、お手を煩わせるようなことはしないように」
頑張りますと言おうとして、怒らせちゃうと口を閉じる。……ああ、本当に、私って、頑張ります頑張りますばっかり言ってたんだなぁと。
首を傾げた私のおでこを、シャルがビシッと指ではじいた。
痛っ。
「リオ、本当ムカつく。どうせ、困ったことに遭遇しても、頑張って自分で何とかしようとか思うタイプだろう?」
ああ、また怒らせてしまった。なんで?
「頑張っても頑張ってもダメだったと気が付いた時に助けを呼ばれても面倒なだけだって分かる?むしろ、ちょっと駄目っぽいとすぐに判断して助けを呼んだ方がマシ、わかんない?」
きょとんとする私にシャルがはぁーーっと深い深いため息をつく。
「魔王が現れました。頑張って倒そうとしました。けれど倒せませんでした。戦っている間に魔王は仲間をたくさん呼びました――と、魔王が現れました。大変だ魔王だ皆助けてと叫ぶと多くの仲間が現れ皆であっさり魔王を倒せました。……って言っても、戦闘スキルがないから分からない?怪我をしました自分で何とかしようとして悪化しました、ハイヒールが必要になりましたと、怪我をしましたヒールで傷口をふさいでもらいました1週間で治りました。どっち?ああ、それも回復系スキルがないから分からない?それとも、わかっていて、無能スキルしかない自分が誰かに助けてもらうなんてできないなんて思ってないよね?」
なんか顔が怖い。怒ってる。また怒らせちゃった。