32話
「大丈夫、残ったら俺が食うから」
あ、はい。そういうことですね。私に食べさせたいんじゃなくて、自分が食べたいと。
「ふふ、そうですね。作りますよ」
どうせ材料はその辺に落ちてた葉っぱと実と誰も見向きもしない糞ドロップ品とそのへんに生えてたきのこだ。お金もかからない。
「じゃぁ、その間に解体の続きやってる」
サージスさんは、一番おいしい肉の部分だけを急いで切り取って持ってきたようで、残りの解体をすると言って猪の元へと戻った。
ちょうどいい。サージスさんの目があるところでは、味噌は取り出しにくいもんね。急いで追加分を作る。
戻ってきたサージスさんに鍋を渡す。
「焼いている間に、スープもどうぞ」
冷めちゃったのでもう一度温めなおしておいた。
「おお」
っと、慌てて猪鍋と表示されていたスープを飲む。木の根っこ……ゴボウって言ったっけ。独特の味だけど、美味しい。不思議な味だ。
「うわー、マジうめー。ってか、いや、ほのかに甘いような感じもするこのうまさってなんだ?お、肉が焼けたな、はー、このピリッとしたのが溜まんねーな。酒飲みたい。あー、あ、そうだ。ちょうどいいや、紹介しとく」
紹介?
サージスさんが、左腕にはまった、私とお揃いの腕輪の石を指先でこすった。
「おーい、シャルス聞こえるか?すぐ来てくれ」
「仕事?」
シャルス?どなたでしょう。と首をかしげている間に、サージスさんのすぐ後ろに少年が一人現れた。
同じ年くらいかな?15歳前後?
少し青みがかったサラサラの銀髪がすごくきれい。
ああ、顔の作りもとても整っていて、まるで陶器でできた人形のような美しさがある。
「ダンジョンじゃないね、ここ。仕事じゃないの?」
「おう、シャルス、紹介するぜ。こいつ、リオ。新しく雇った荷運者だ。リオ、こいつは前からいる荷運者。ちょっと不愛想だけれどいいやつだから安心してくれ」
えーっと、安心?
シャルスさんは、めちゃくちゃ敵意むき出しで私をにらんでいるように見えるんですけど。
「は?新しい荷運者?役に立つの?」
いぶかしげな眼を向けられる。
「あ、あの、頑張りますので、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、シャルスさんの綺麗な顔が醜くゆがむ。
「ボク、一番嫌いなんだよね、頑張る、頑張るってやつ」
え?
「何?頑張るってそんなに偉いこと?手を抜かないとかサボらないとかそんなの当たり前じゃん。頑張るって何?大事なのは結果でしょう?頑張ったけれどダメでしたで済む話と済まないことがあるでしょう?頑張るが免罪符になるほど、ダンジョンの中は甘くないんだけれど」
正論だ。
頑張ったけれどモンスターを倒せなくて命を落としたら意味がない。
頑張って荷物を運んでも価値のない物ばかりじゃ意味がない。