29話
もしかしてもう気が変わっちゃったのかな?やっぱりS級冒険者が無能スキルの荷運者を雇うなんて変だもんね。
サージスさんがにかっと笑う。
「おかわり!」
雪平鍋を差し出した。
「え?」
「だめか?は、半分俺の……とかちょっとずうずうしいか?」
まるで、なんか、無垢な動物が食べ物をねだるような目で私を見上げている……いや、実際は身長が高いサージスさんが私を見下ろしているんだけれど……。こ、これは、なんというか、あらがえないかわいさがある。
いやいや、私よりもずっと大きくて年上で、しかも強い人に対してかわいいってなんだろう。
ふと目を抑える。
【スキルジャパニーズアイ発動】
ああ、そうだ。青いほうの右目を隠して黒い左目だけで見ると発動するんだっけ。
【漫画的表現】
ん?何、漫画的表現?
「ふあっ!」
思わず声が出て口を押える。
何、どうして?サージスさんの頭の上に、なんか犬みたいな耳が見える。それからお尻からふさふさのしっぽが見える。そのしっぽがフリフリと嬉しそうに揺れている……。
っていうか、かわいい。
「あの、時間、そう、時間はありますか?」
「ん?まぁ、急ぎの用事はないぞ?」
「じゃぁ、せっかくなので、具もいれて作ります」
しっぽが、しっぽが。ぶんぶんと大きく振られている。耳がひくひくっと私の声に反応して動いてる。
【漫画的表現:まるで大型犬】
何、だから、漫画的表現って。漫画って何?まぁいいや。とりあえず、私もまだ十分にお腹が膨れているわけじゃないし、それに、味噌……美味しかったもん。もうちょっと食べてみたい。
「ああ、じゃぁ、これ使うか?」
サージスさんが鞄から肉を取り出した。干し肉じゃなく生肉だ。……鞄、時間停止の収納鞄なのかな?
【牡丹肉:味噌仕立ての鍋や、豚汁の豚肉の代用になる】
ん?牡丹肉?
味噌仕立て?味噌って、あの味噌だよね?豚汁って何だろう。豚って何?
「ありがとうございます。使わせてもらいます。あと、他の材料採ってきます」
「は?獲る?」
確か、あった。食べられるきのこ。【しめじ:香り松茸味しめじ】あ、またジャパニーズアイで表示されてる。いったんスキルが発動されると、しばらくは発動されたままなんだ。……それにしても、文字が見えるものと見えないものがある。何の法則があるんだろう?
……見えない物ばかりに囲まれていたから、今までスキルにこんなことができるって知らなかったんだけど。まぁ、知っていても……。
謎の言葉ばかりで全然役に立たない。
【ゴボウ:根菜】
ふと目に付いた葉っぱに表示された文字。根菜は、意味が分かる。根っこが食べられる野菜のことだ。食べられるってことで、いいのかな?
とりあえず掘り出して……う、なんかすごい長い、細い、木の根みたい……。えーっと……糞に続いて木の根を食べさせるのばれたらまずい?