28話
っていうか、いつもの私なら持って帰ったりしなかった。これは……。
「サージスさんが倒した吸血蝙蝠のモンスターのドロップ品……」
「なんだ、俺のか!」
そうだ、サージスさんのだ!
「ご、ご、ごめんなさっ……」
返さないと駄目?そうすると、糞汁だってばれる。あ、でも、ど、ど、どうしたら。
たぶん誰が見ても挙動不審に、立ち上がったり座り込んだり手をふらふらさせたりしている私を見て、ぷっとサージスさんが噴出した。
「ふははは、返せなんていわねぇよ。そもそも、あの時俺は、全部いらないって言っただろう?」
サージスさんがいつものように、私の頭をぐりぐりと撫でる。
「ああ、だけど、こんなうまい物まで今までいらないと見向きもしなかったなんて、もったいないことしたなぁ……っていうか、浅層モンスターからこんないいものが……」
サージスさんが鍋を手にとり、ごくりと味噌汁を飲んだ。
「すげーな、これ。何にも具が入ってなくても味わい深い」
ほわぁーと目を細めて幸せそうな表情を見せるサージスさん。
「ああ、でも、いちいち浅層モンスターを倒したドロップ品を吟味して拾うなんてこれからもするつもりはないし……そんなことしてたら、深層に到着するまでに日が暮れちまうもんなぁ」
うがーとサージスさんが両手で頭をガリガリとかきだした。
「あ、あの、僕が拾いましょうか?」
「は?」
しまった。ずうずうしいこと言っちゃった。
慌てて両手で口をふさぐ。
「そうか、浅層だけリオに荷運してもらえばいいか。リオが危険な場所になったら、ソレで戻って貰えばいいんだよな」
サージスさんが、私の手首にはまった入り口まで転送する腕輪を指さす。
「じゃぁ、早速明日頼むわ。じゃないな、パーティー組もうぜ。ギルド行って登録な」
「え?え?」
私が、S級冒険者の正式な荷運者に?
「ぼ、僕なんかが?だって、僕は……無能スキル……しか…なく……て」
サージスさんがむっとした表情をする。
「スキルで人を選ぶようなことはしねーよ。ギルド職員でさえ見逃してた千年草を見分けられるお前を、俺は買ってるんだ。頑張ってるお前をな」
「頑張ってる、僕を……」
サージスさんがニヤリと笑う。
「そうだ。リオは頑張り屋だろ」
私は……。無能スキルだから、だから……人より頑張らなくちゃいけなくて、だから頑張って……。
そうだ。頑張っていることまで否定したら、私には何も残らなくなってしまう。
「は、はい、あの、僕、もっともっと頑張ります。だから、だから、よろしくお願いしますっ」
頭を下げると、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。
頑張るなんて当たり前のことなのに。なのに。認められると嬉しい。頑張っている私をサージスさんは見てくれたんだ。
「ほら、さっさと行くぞ!」
頑張らなくちゃ。
慌てて顔をあげて目元を服の裾でぬぐう。
「……と、言いたいところだが、その前に」
え?ギルドに行かないの?