26話
「いやいや、待て待て、俺が買った兜は、良い値が付いたぞ、いや付きそうだと言った方がいいか。研究者に渡してきたシェリーヌは大喜びだったぞ」
「研究者?もしかして、ドロップ品大辞典の作者のシェリーヌ様?」
すごい、サージスさん、そんな人とも知り合いなんだ。
「そうだ。リオのそれもシェリーヌに預ければ高く買ってくれると思うけど」
「あの、でも、僕はこの鍋……じゃない、兜が気に入ったんです。僕は非力だから、重たい鍋を持ち歩くと運べる荷物が減っちゃうし、この兜なら軽いし、サイズもちょうどいいし、ほんの少しだけれど防御力も上がるから」
「くくくっ。そうか。うん、鍋が、ほしかったんだ。で、これはお前が作ったんだよな。食べないのか?」
サージスさんが鍋の取っ手を持って持ち上げ、私の目の前に差し出す。
香りは、悪くない。
でも、はいってるの「糞」と呼ばれる……やつなんだよなぁ。
食べ……るの、勇気、いるんだけど……。
「あの、もう、おなか……いっぱいで……」
勇気、出なかった!やっぱり、もうちょっと、こう、覚悟がいるっていうか。っていうか。
「なんだ、残すなら、もらってもいいか?」
サージスさんが、鍋に口をつけてそのまま汁をごくりと飲んだ。
ぎゃーっ!S級冒険者のサージスさんが、「糞汁」飲んだぁ!
「うっ」
一口飲んだサージスさんがうめき声をあげる。
や、やばい。やばい。まずかったんだ。調味料ってジャパニーズアイの表示はやっぱり信じちゃ駄目だったんだ。
「うっま」
へ?
サージスさんがふはーと、息を吐き出し、私の手元のスプーン代わりの木の枝を手に取って、鍋の中身を勢いよくかきこんだ。
「なんだこれ、今まで食べたことのない味だけど、何入れたらこんな味になるんだ?」
うえ?
ど、ど、ど、どうしよう、どうしよう、いくらジャパニーズアイで調味料って表示されてるからって、S級冒険者様に……。
糞、糞、糞汁……を飲ませてしまったなんて……、もし、知られたら……。
私、どうなる?どうなるの?
青ざめて黙り込んだ私の顔をみて、サージスさんまでも顔を青くした。
「す、すまん、もしかして、こんなに美味しいんだ。とっておきの……なんか高級な、特別な調味料を使ったのか?」
高級どころか、皆が見向きもしないドロップ品です……。
「残すつもりじゃなくて、一度に食べるのがもったいなくって、取っておこうとしたのか?」
違う。さすがに調味料って嘘かもしれないと、飲むのを躊躇してただけで……。
く、く、糞汁だって知られたら、知られたら……。