196
「飲めば、喉がカーッと焼けて、死んじまうやつも出るからね、飲むための酒じゃないよ。武器の手入れなんかで負傷した時に消毒するためのもんさね」
おばあさんの言葉に、シャルが笑った。
「なるほど、だから武器屋で売っていると、言うわけか」
おばあさんがシャルに笑い返す。
「そうだよ、旦那が集めたガラクタばかり並べてたんじゃおまんま食い上げだからねぇ。旦那が生きてた頃も、ワシの作ったコレで何とか店を続けてこられたのさ」
「作った?すごいですっ!消毒ができるって、汚い剣でうっかり切っちゃっても、ばい菌が入り込んで膿んでぐじゅぐじゅしたり真っ赤になってはれ上がったりとかしないってことだよね。洗浄スキルとか浄化スキルとかなくてもいいなんて!」
「ふははは、新鮮だねぇ。いやいや、はははははは、こりゃ、新鮮な言葉を聞いたよ」
小さなおばあさんの、しわくちゃで小さな手が伸びて私の頭を撫でた。
え?だって、すごいよね?
「うちの店の客は、すごいなんて言いやしないよ。うらやましいとはよく言われるけどね。そんなスキルがあれば安酒でも楽しめるのにと」
「安酒でも楽しめる?」
え?消毒を楽しむの?
きょとんと首をかしげる。
「ああ、ワシのスキルは、安酒を消毒に使えるところまで強い酒に変えることができる能力だからね」
さらに首をかしげる。
「楽しいんですか?」
「あはははは、まだまだ子供にゃ分からない話じゃったかの」
おばあさんが楽しそうに笑っている。大人になったら分かるのか。
あ、もしかして、フランベするととても美味しい料理になって、それが楽しめるってことなのかも?
フランベ……やってみたい。ああ、でも、料理のために欲しいって、しかも美味しくなるか分からないのに欲しいって言うのシャルはどう思うかな?
馬鹿なのとか言われる?でも、おいしくなるならシャルにもサージスさんにも食べてもらいたいし。
「あの、これ、一つください」
おばあさんは目を丸くした。
「買うのかい?」
「ちょ、リオ、いらないだろ」
シャルも慌てている。
「あの、でも、消毒とか、必要だと思うんです」
料理のことは黙って誤魔化した。うん、消毒、必要だよね、必要。うん。変なことは言っていない。ちょこっとだけ料理に使ってみるけど。美味しかったら消毒より料理にいっぱい使っちゃうかもだけど。
シャルとおばあさんが私の顔をじーっと見た。
やばい、目が泳ぎそうだ。
「はー、確かに。厄災では何が起きるか分からないから、消毒液も大量にあることに越したことはないでしょうね。あー、リオが何も知らない子供でよかった」
シャルがなぜが頭を押さえた。
シャルは知ってるの?フランベするとおいしいって。
「くくくっ、いや、そうさね、消毒として買っていく客があまりに少なくて忘れるところじゃったよ、そうそう、消毒じゃよ、消毒」
え?みんな料理に使うために買っていくの?
おばあさんがちょいちょいとシャルを手招きして、何か耳元で話をしている。
ところで、消毒液が不足していた去年は、酒造屋さんが消毒液を販売したりしていましたね。
ところで、最近「アルコールマーカー」と「油性ペン」の境目がよくわかりません。原材料とか見比べたりとかしても……うーん、