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「あの、いや、あれ?せ、聖人様、あの、えっと」
戸惑う店主の声が聞こえてきた。だから、聖人って何?あれ?私名乗ってないから、呼び方が分からない?でも、シャルが散々リオって呼んでるし?
「本気で言ってる、嫌味じゃないから……はぁ、リオはリオだなぁ」
シャルが店主に何か囁いた。
リオはリオ?名前を店主に教えてくれたのかな?
「じゃ、行こうか」
「はいっ!」
シャルに言われて、収納箱に両手を伸ばす。
ぱっと私の前から箱が消えた。
「シャル?」
シャルが私よりも先に、収納箱を持ち上げたのだ。
「持つ」
「え?なんで?」
どうしてシャルが持つの?
どうして、シャルが、持つの?
ぶわっと、涙が溢れてきた。
「ちょ、何?感動してんの?僕だって、これくらい気を遣うことできる」
気を遣う?何のこと?
「シャル……やだよ、僕が持つよっ」
収納箱に手を伸ばす。
「ちょ、僕はサージスさんほど力はないけれど、これくらい持てるから、って、リオはなんで泣いてるの?」
「僕は荷運者だよ、僕が持つ。シャルが荷物持つなら、僕、いらないってことになっちゃう。僕、シャルにいらないって思われたくないよ」
ボロボロと涙が零れ落ちた。
やばい。なんだろう。
ロードグリにクビだと言われた時よりも、ずっとずっと悲しい。
絶対にパーティー辞めたくないって。どうしたら伝わるの?頑張るよ。もっともっといっぱいいっぱい頑張るから。
私を捨てないで。
バチコーン。
痛っ。
【でこピン】
うぐぐっ。
「僕がリオをいらないと思う訳ないって、まだわかんないの?どうしたら伝わる?体に教え込めばいいの?心に刻ませるにはどうすればいい?ねぇ、いっそ禁断の隷属アイテムでつながれる?」
いたたた、久しぶりにでこピン来た。そして、なんかすんごく痛い。
両手で額を押さえて唸っている間に、シャルがなんか言ってる。
全然聞き取れない。
「あはは、これは、厄災が終わったら店で働きませんかとスカウトなんかできませんね」
店主が笑っている。
何を笑っているの?
シャルが再び脇に収納箱を抱えた。
それを見て、やっぱり私、荷運者として役立たずだと言われているようで胸が苦しくなる。
「これ、厄災への備えの買い物頼まれた城の荷物でしょ?パーティーの大事な荷物は荷運者のリオに任せる」
え?
シャルが私が背負っているリュックを指さした。
「サージスさんと僕とリオのパーティーの大事な荷物は、パーティーの荷運者のリオに任せる。城のお使いの荷物は男の僕が持つ」
それだけ言うと、シャルは踵を返して店を出て行った。
「パーティーの荷物は、パーティーの荷運者の私……?」
ボロボロと、涙が落ちる。
ああ、今度は悲しくてじゃない。嬉しくて、嬉しくて。
なんだろう、最近私涙もろすぎる。でも、嬉しい。嬉しいよ。
頑張ろう。もっといっぱい勉強して、知識を増やして、ドロップ品のこともそうだけれど。サージスさんにおいしいものが作れるように料理も勉強しよう。それから、ちゃんと自己投資もしてもう少しは戦えるようになって。
シャル、荷物は男が持つ!
……ジェンダーがどうのとか世の中あれですけれど。
物語の中では男は男らしくとか女は女らしくといった表現が必要になる部分もあるので、見逃してね。
そもそも、現代社会が舞台じゃないので、そういう世界なので……ごにょ