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しかし、不思議なことに南京錠には鍵穴が存在しない。
「そうです。これが付けられている限り箱を壊すことも無理やり開けることも不可能です。鍵となるのは、この二つ。二つが揃わ兼ねれば開けることができません。荷物を運ぶときは、私と、護衛の者と分けて持っています」
カギだと店主が見せてくれたものの1つは、どう見てもベルトだ。ズボンが下がらないように腰に巻くベルト。しかも、ちょっと小汚い。
まさか、これがカギだなんて誰も思わなさそうな。
そして、もう一つは、リボン。とても美しいレースの白いリボンだ。
綺麗でそれなりに値が張りそうではあるけれど、わざわざ盗もうと思うような品ではない。まさか、これも鍵だなんて誰も思わないよね。
「店の者にも、護衛にも、鍵となるのはこれとこれだと言っていますがね」
と、店主が腰に巻いたベルトをトントンと指でつついた。
鍵だというベルトとそっくりなちょっと小汚いベルトだ。
「なるほど、だからベルトを護衛に預けてしまうんですね。悪さを働こうとする者がいても、本当のカギが2つそろえられない」
「ええ。過去に3度ほど、ギルドで冒険者の資格がはく奪になった者がいましたが、誰も収納箱の中身を盗み出すことはできませんでしたよ」
店主がニヤリと笑った。
え?冒険者の資格がはく奪って、護衛として雇われた人間が荷物を盗もうとしたってこと?
「で、いくら?もちろん鍵もセットでつけてくれるんでしょ?」
シャルの言葉にハッとなる。
「まって、シャル、いくら緊急事態だからって、これがなくなったら、お店が困るんじゃない?今度から第、えっと、第三領域?から荷物運ぶのが大変に……」
慌てる私に、店主さんがにこりと笑った。
「売りませんよ」
え?
「レンタルしましょう。どうせ厄災が始まれば商売どころではないでしょうし。仕入れに向かうのは1年に1度ですから。普段は寝室で、椅子代わりになっているだけですからね」
「レンタル?」
「そうだね、買うとなると莫大なお金が必要になるだろうし、そうしてもらえれば助かる。レンタル料は金貨10枚でいい?」
「ええ、そうですね。緊急事態ですから、厄災が終わるまで。1年か10年か分かりませんが金貨10枚で貸し出しましょう」
シャルと店主の間であっという間に交渉が成立してしまった。
レンタル?貸出?
買うばかりが手に入れる手段じゃないってこと?ああ、そういえば貸し馬車とかそういうのもあった。
そうか。収納箱も借りられるんだ。
「よし、じゃぁ、どんどん箱に入れてこう」
シャルが、私が選んだこの店で買う品を箱に入れ始めた。
店主はすでにメモした紙に、シャルが入れた品と照らし合わせてチェックをしている。
「あ、シャル、それは」
シャルがマニ車とジャパニーズアイで表示されたメイスのようなものも箱に入れる。
「役に立つか分からないのに」
「でも、欲しいんだよね?」
素直にシャルに頷いて見せる。
「役に立ったか立たないかなんて結果論だよ。あの蛇尻尾のモンスターには火属性が効果があったからって、これから出てくるモンスターが火属性の武器が効くとは限らない。けど、火属性の武器も集めるよね?で、結局使わなくて役に立たなかったからって、無駄なもの買ったなって誰が言う?結果的に無駄になることを恐れて備えないのって馬鹿でしょ?」
うん、確かに。
いつもご覧いただきありがとうございます。
災害へのそなえ、してますか?
私は、うーん。半分程度って感じです。100%はそなえられてません。
なぜかというと思い立ったときにがーーーーっと動くんだけど、継続的に動けないから。
食料とか定期的に入れ替えないとだめなものは手薄……。
一方1回買えばそのままで大丈夫なダイナモラジオだとかはばっちり……です。
ちゃんとそなえないとなぁーとは思ってはいるんですが。
なんていうか、食料も水も、そろそろ買ったら20年くらい大丈夫なやつとか売ってくれないですかね……