19話
まさか、相手がS級冒険者のサージスさんだから、お金を持っていそうだから値段を吊り上げた?
「そ、そんな、さっき金貨1枚だって言いましたよね?」
私の言葉に、店員がさっと青ざめる。
あ。やっぱり、サージスさんに吹っ掛けようとしたんだ。
「わ、わたくしは、そのようなことは……」
しらを切ろうとしてもダメなんだから。
「確かに、金貨4枚はするけれど、特別に金貨1枚にって言いましたよ、ね、皆さんも聞いていたでしょう?」
と、さっきまで笑っていた冒険者の顔を見る。
あ、目を反らした。なんで。
って、そうか。ここで私の味方したら、買い物しにくくなっちゃうもんね……。う、うう。
「それは、本当か?」
サージスさんが店員を睨み付けた。
「ま、まさか。防御力が3しかあがりませんので、銀貨5枚……」
「そうか。そうだよな。金貨1枚の価値はないな」
サージスさんがぎろりと店員を睨み付ける。
え?
「き、きっと、聞き間違えでしょう。そちらのお客様、ほ、ほら頭にかぶったまま話を進めていましたので、金貨と銀貨を聞き間違えたのかと」
は?私が、金貨と銀貨を聞き間違えた?
「え?……っていうことは、もしかして、この兜……銀貨4枚を銀貨1枚で売りますよと、そういう話だったのですか?」
「あはは、そうです、そうです、サージス様に5枚と申しましたのは、そ、そこから値引き交渉をしていただいて、とのつもりで……」
はははと、乾いた笑いを漏らす店員。
「か、買います!銀貨1枚ですね、あの、僕に売ってください。ああ、でもサージスさんが銀貨5枚で買うといえばサージスさんに売るんですか?だ、だったら、僕が、銀貨6枚出すので、僕に、僕に売ってくださいっ!」
腰が抜けそうになっている店員に、サージスさんが「おい」と声をかける。
「は、はい、もちろん、はじめに言った銀貨1枚で結構です、ええ、もう、お坊ちゃまにはとてもよくお似合いで……」
へ?
「サージスさん、いいの?ほしかったんじゃないの?この……」
鍋と言おうとして慌てて口を閉じる。
「いや、俺はいらない。っていうか、リオこそ、そんな防具でいいのか?もっと他にいろいろあるだろう?分からないなら俺が見繕ってやろうか?」
サージスさんの言葉に首を横に振る。
「ううん、ありがとうございます。お店の人がとても親切なので、お店の人に相談するので大丈夫です」
「「「「「は?」」」」」
ん?
声が何重にも聞こえた。サージスさんと店員さんと冒険者さんたち。なんで?