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見上げれば、ドラゴンが大空へと飛び立っていた。
くるくると頭上高くでドラゴンが円を描くように飛ぶ。
「ぐがーっ」
咆哮というよりは、何か話をしているような声を上げて、去って行った。
え?あれ?
ジャパニーズアイが反応しない。いや、それが普通か。
フェンリルや餓鬼さんたちの言葉が分かったのが特別だったんだよね?スライムやゴブリンの言葉は分からないもん。
「はー、でも、いったい何だったんだろう……」
緊張が続いて疲れてしまった。
ぺたりと地面に座り込む。
冷や汗が額から流れ落ちたのでぬぐう。
あ、片目ふさいじゃった。
【スキルジャパニーズアイ発動】
ん?2重とか出ない……そうか。スキルが切れてたのか。もしかしたら、ドラゴンの言葉もスキルが発動していたら分かった?
ドラゴンと会話できたらすごいよね。
って、そんなわけないか……。
ほーっと、息を吐きだす。
ドラゴン襲来……いや、襲われたわけではないけど、突然現れてびっくりしすぎて、おちつくまでに結構かかってしまった。頭が働かない。えーっと、何してたんだっけ?
「あ、そうだ!キビ団子作ってる途中だった!」
火を使う作業は終えていたから、焦げたりとかしなくてよかった!と、雪平鍋の姿を探すけど、見当たらない。
え?どこ行っちゃったの?
ドラゴンが飛び去る時に強い風が吹いたから、飛ばされちゃった?
きょろきょろとあたりを見回す。
凸凹してるけれど、紅蓮魔女に焼き尽くされて灰ばかりの土地になっちゃってるから、生い茂った草木をかき分けて探すとかしなくてもいいんだけど……。しかし、舞い上がった灰をかぶってしまっていたら、一面灰色過ぎて見つかるかなぁ……。
地面に四つん這いになって、それらしいふくらみがある場所の灰をどけて探す。
「あ、あったぁ!」
「何があったの?」
「へ?シャル!おはよう」
シャルが起きてきた。
「っていうか、何したら、そんなに灰まみれになるの?」
シャルの顔がゆがんだ。
自分の姿は見えないから、気が付かなかったけど。私、灰まみれ?手足を見れば確かに灰まみれだ。シャルの顔がすごく不快そうなんだけど。
でも、灰の上に寝ていたシャルもずいぶん灰にまみれて【シンデレラ】ほら、変な文字出てますよ。
「な、何って……」
ドラゴンが現れて灰を巻き上げて行ったとかは……言わない方がいいよね。もういなくなってるし。無事だったから言う必要もないよね。
「シャルが起きた時に、お腹空いてるかもと思って……」
手にした雪平鍋を見せる。
からっぽの雪平鍋。ああ、せっかく作ったキビ団子……鍋から飛び出してどっか行っちゃったみたいだ。空っぽ。