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「がるるる」
【鬼退治の宿命を背負った我らの牙が、鬼を傷つけられないわけはないだろうに】
鬼退治の宿命?
「わんっ」
【キビ団子できたら呼ぶがよい】
フェンリルが、嬉しそうにしっぽをフリフリと去って行った。
「あー、びっくりした」
シャルが息を吐きだした。
「突然フェンリルが現れるなんて。縄張りを荒らしたこの化け物を排除しに来たのかな?それとも山が一つ消し飛ぶような魔法に様子を見に来たのか……どちらにしても、襲われなくてよかったね」
シャルが緊張を解いた。
そうか、私はジャパニーズアイで、フェンリルが敵意が無いこと分かっていたから平気だったけれど。普通はフェンリルが現れたらどうしようって思うものなんだよね。
「あー、もう、だから嫌なんだよ。スキルをギリギリまで使うのっ」
シャルがイライラとした声を出した。
「でも、シャルのおかげでサージスさんたちも街の人たちも助かったんだよね。ありがとうシャル」
にこりと笑ってお礼を言う。
シャルのスキルのおかげ。
嫌だと言いながらも、スキルを全部使って……自分が犠牲になろうとまでしてくれた。
「そうだね。サージスさんたちや街の人たち……陛下たちは僕のおかげで助かったんだよね」
シャルが自慢げに笑った。
「うん。すごいよ。さすがシャル」
そのシャルと同じパーティーだなんて今でも信じられない。
「けど、そのすごい僕を救ったのは、リオだ」
シャルが手を伸ばしてゆっくりと開いた。
「だから、リオもすごい」
シャルの手の平には、スキルの回数が1度多く使えるボタン。白かったボタンが赤くなっている。色が戻るまでは効果はない。再び効果が表れるまでの時間はボタンによって違う。早く効果が回復するほど値段が高くなるけれどこればかりは鑑定魔法を使うか、実際に時間を計ってみるしか知りようがない。……ああ、やっぱり鑑定魔法使える人ってすごいんだなぁ。見ただけでは分からないことまで分かるんだもん。
「僕は、全然すごくないよ」
もっと、もっと勉強しなくちゃ。
もしかすると、私が知らないだけで、鑑定魔法を使わなくても効果が回復する時間が分かる目印みたいなものもあるかもしれない。
「はぁ?この僕を助けたんだからすごいに決まってるじゃんっ!」
「えーっと、助かったのはボタンと、それからフェンリルのおかげだよ?」
きょとんと首をかしげると、シャルが私の鼻をきゅうっとつまんだ。
「はー、もう、リオは、リオだよな……」
シャルがため息をついた。
え?何かおかしなこと言った?
「あ、シェリーヌ様のスキルのおかげで倒せたともいえるので、シェリーヌ様もすごいですよね、えっと、それから」
シャルが私のほっぺをぶにーと横に引っ張った。