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「もっと早くに伝えてくれてたら、一緒に飛ぶことはなかったんだ……僕はリオと心中なんて望んでないんだからな……」
1分ほどで、シェリーヌさんの放ったスキルが収まる。
黒焦げになった般蛇が力なくドスンと地面に倒れた。
山が1つ丸坊主になっていて、木々はすっかり灰になっているというのに、般蛇はまだ炭のようになってはいるものの灰にはなっていない。
だけれど、次第に蛇の尾の先からさらさらと崩れ落ちていく。
「やっつけたみたいだね」
シャルがそれを見てほっと息を吐きだした。
「おのれ、おのれ、許さぬ、小僧、お前たちのせいでっ」
倒れたはずの般蛇の上半身が持ちあがり、真っ赤な目が私とシャルをとらえた。
黒焦げになった顔がポロリと落ちる。
【般若の面】と、落ちた顔でなく文字が現れ、その下から出てきた顔に【真蛇の面】と文字が浮かんだ。
耳が無く、痩せて白かった肌の色が土気色になっている。とがった口はさらに鋭く、歯も肉食獣のように獰猛そうだ。
「くっ、リオ、逃げろ」
シャルが私を背後に突き飛ばし、両手を広げて下半身の蛇の部分がボロボロと崩れ落ちていく般蛇の前に立ちはだかった。
今度こそ、もうだめかもと、思った時に思い出した言葉がある。
「助けて!」
ダメもとで声をあげると、般蛇の上半身を押さえつけるようにドスンとフェンリルが乗っかった。
「ぐるるる」
【助けを呼んだか?】
慌てて首を縦にふる。
フェンリルが、足元の般蛇に視線を落とす。
「ぐるる」
【鬼退治か。キビ団子の礼の定番だな】
キビ団子?
大きな口をがっと開いて、フェンリルは押さえつけている般蛇の首もとにかみついた。
「ぐふぅっ、そんな馬鹿な。我ら鬼にこの世界の物理的な攻撃が効くことなどないはずなのに……なぜ、お前の牙は童に傷をつけることができるのだ」
般蛇が驚いたように目を見開いている。
「鬼には物理的な攻撃が効かない?」
シャルがつぶやきを漏らした。
「確かに、餓鬼も切れはしたが再生した。この化け物もサージスさんですら傷一つつけられなかった。鬼と呼ばれるものには火魔法しか対抗手段がないというのか?」
シャルのつぶやきに、フェンリルにかみつかれ、次第に体が形を保っていることができずに崩れて行っている般蛇が反応した。
「ふ、ふふふふ、そうだ、絶望するが……いい。我ら鬼を倒すには……特別な……が、……の……った……」
「ああっ、くそっ。情報を得るチャンスだったのに。簡単に死に過ぎだろっ!」
シャルが息絶えた般蛇に舌打ちした。
フェンリル「わんわん」【ほめてほめて】