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「くくくっ。もう、尾を押さえつけてる邪魔な大男はいないの。お前1人じゃ、残念ながら街への足止めになどなるわけない。あはははは」
楽しそうに笑い出した般蛇に、ぐっと奥歯をかみしめるシェリーヌ様。
「分かったわ。スキル発動の準備に15秒頂戴」
え?うそ?
シェリーヌ様の顔を見る。真っ青を通り越して、真っ白な顔をしている。
シェリーヌ様も、辛いんだ。自分のスキルで多くの人が犠牲になるのは。サージスさんとどれくらい親しいか分からないけれど、少なくとも名前を呼び合える相手を自分のスキルで命を奪ってしまうなんて……。
何か、何か私にできないの?
悔しい、どうして。
今ほど、今ほど、もっともっとすごいスキルが使えればよかったのにと思ったことはないっ!
ずっと握っていたシャルの手……急にぐっと力が入った。
そうだ。シャルはどんな気持ちなのか。
シャルの顔を悲痛な思いで見る。
シャルは、思っていたよりも悲しむ顔はしていない。
それどころかふっと笑って、私の手を放した。
「はー、仕方がないよね。これも運命ってやつ?」
運命?サージスさんが死ぬのが?
「スキル、あと1回しか使えないのってさ、あと1回は使えるってことだし。いっそ0回だったらあきらめもついたんだけどなぁ……」
どういうこと?
シャルの声、言葉も言い方もいつもの調子に聞こえるけれど、でも声が震えてる。どういうこと?
「シェリーヌ、僕があの化け物と飛ぶ。あそこに見える1本突き出した杉の木の影」
シャルが山1つ分は遠い場所に小さく1本だけ突き出した木を指さした。
「あそこなら周りに人はいないだろうから、思い切りぶっ放していいよ」
シャルの言葉に、思わず悲鳴に近い声が上がる。
「シャル、最後の1回使って飛ぶって、それじゃぁ、シャルは戻ってこられなくて」
シャルが久しぶりに私のおでこを指ではじいた。
【でこぴん】
「泣くと不細工」
シャルの言葉に、余計に涙が止まらなくなった。
ボロボロとこぼれる涙。
駄目、駄目。
やだ、やだ、シャル。
だって、それって、シャルは死んじゃうってことだよ……。
「ぼ、僕に、できる、こと……」
倒れている兵たち、たくさん傷を負って意識を失ったガルモさん。
腕も足も、あちこちボロボロで動かせないサージスさん、そして、自分の命を犠牲にする覚悟を決めたシャル……。
私は何もできないの?
無能スキルしかないから仕方がない、無能スキルしかないから……なんて、もう、言い訳に何てしたくない!
考えるんだ、考えるんだ、私にできること、私に、できること!
「リオにできること?ああ、そうそう。僕がいなくなったらパーティークビね。僕がいなくちゃサージスさんについていけないでしょ?」
クビ?なんで、今そんなこと……。
注*あとがきには本編と関係のない作者の言葉が書いてあります*作品のことだけどな
ども。
まさかの、ヤンデレシャル君退場……。
そういうキャラだったのかよ!
ああ、確かに、死にそうなキャラだよな……。
でも、それ以上に、とまとって、人が死なない小説ばっかり書いてないか?よほどのことがなきゃ死なないよな?
とか思われてたら台無し。
臨場感!裏をかいてシャル退場させようか。人が死ぬことで、主人公が一段と強くなる。
王道パターンだね。
ワンピースではエースが
鬼滅では煉獄さんが
よし。シャル、お前退場な。