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「しまった、血で滑って……」
つるりと、蛇の尾がガルモさんの脇から抜け出る。その瞬間、自由になった蛇の尾が勢いよくガルモさんを弾き飛ばした。
「ぐぅっ」
ガルモさんの巨体が、まるで小石のように軽々と飛ばされ、森の木々を数本なぎ倒す。
「ガルモさんっ!」
そのままガルモさんは動かなくなってしまった。
「シェリーヌ、もう、限界だ。このままでは街に被害が広がる、すぐにスキルの発動を頼むっ」
サージスさんが地面を蹴り、般蛇の蛇の尾を勢いよく駆け上がり、頭の上に飛び上がった。
「ちょろちょろと邪魔だっ」
般蛇の顔の周りを素早く動き回るサージスさん。
目をふさぐように前に現れたかと思えば、角をつかみ、頭の上で回転したりしている。
一見、般蛇をからかうような動きをして余裕があるように見えるが、そうじゃないことは明らかだ。
あちこちがあざだらけで、右腕はさっきから全然動いていない。真っ黒にはれ上がっている。
動かしている左手だって、指の何本かが変な向きに……。
ここが、サージスさんの戦場。私は私の戦場へ行けとサージスさんは言った。確かに、私がここにいたとしても足手まといにしかならなかっただろう。
でも、でも、でもっ!
役に立てることはないの?何かできないの?
「今、ここでスキルを発動すれば、倒れている兵たちも、サージス、お前も犠牲になる。もっと人がいない場所じゃなければ」
シェリーヌさんが周りに倒れている兵たちにまだ息があるのを見て叫んだ。そうだ。シェリーヌ様のスキルは街を一つ、山を一つ焼いてしまうほどの威力だと言っていた。さすがに自分のいる位置へ被害が及ぶようなことはないだろうから、シェリーヌ様と一緒にいる私やシャルは問題ないだろうけれど……。
サージスさんやガルモさん、それに100人以上の兵たちが……。
「ダメだ。すぐに頼む。もう、俺も持たない……街へ行けば、この何倍も被害が出る!頼む」
サージスさんの体を、蛇の尾が打ち付ける。
「ぐぅっ」
変な声と、血がサージスさんの口から洩れた。
ああ、ああああ、ああっ!
嫌だ、嫌だ、嫌だぁ!
どうしよう、どうしよう、泣いてる場合じゃないよ。
でも、涙が止まらない。
嫌だ。サージスさんやガルモさんが死ぬなんてっ。
言っていることは正しいんだろう。こんなにたくさんの倒れている兵たちが束になっても倒せない。S級冒険者のサージスさんでさえ街に近づけさせないのがやっとで……もう、打つ手がなくて……。
このチャンスを生かすしかなくて。
打ち付けられてもなお、般蛇の角にしがみついていたサージスさんを再び蛇の尾が狙う。
絶対絶命
今日はひな祭りですね。