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すでに家から酒瓶を持ちだして飲み始めている人たちもいる。
餓鬼がふらふらと近づいてくると、酒瓶を男が差し出す。
「なんだおめー、酒飲みか?食べ物より酒がいいのか?一杯どうだ」
男の人の手荷物酒瓶に文字が現れる。【甘露:天の酒、天から降りてくる甘い露】
ぽんっと、男の近くにいた餓鬼が姿を消した。
「おうおう、うまかったか、そうか、オイラも死んでからも酒飲みたいもんなぁ、かかかっ」
ああ、そうか。きっとそうだ。私のことを聖人といっていた街の人たちの顔を見る。
「見ましたか?僕が特別なんじゃない。あの子もあの人も……一緒に食べたり飲んだりすれば、餓鬼は消えるんです。あの、街の他の場所の人にも伝えてください。それから……」
男の子たちに声をかける。
「街の他の場所にいる餓鬼たちにも食べていいって伝えて回ってくれる?」
男の子と少年がしっかり頷いた。それを見て、兵たちに声をかける。
「お願いします。この子たちと町を回ってください」
兵が頷き、男の子を抱き上げ、少年と一緒に移動を始める。少年が振り返って私に手を振った。
「シャル殿、聞こえるであろうか」
突然、甲高い声が耳に届く。
「伝令?」
声の元を見上げてシャルが眉根を寄せる。
シャルの頭上1mほどの場所に、青色の大きな蝶が姿を現したのだ。手の平の3倍ほどもある。
「シャル殿、聞こえるであろうか」
同じ言葉を繰り返す蝶。
「至急城に戻ってほしい」
「あー、もう忙しいな。リオ、行くよ」
シャルが手を差し出す。え?でも、私は街の餓鬼たちを……。
「もうさ、街の人に任せておけばいいだろ」
ぽんぽんとあちこちから音が聞こえ、街が次第に花の香りに包まれている。
ひらひらと舞う花びらも時折見える。綺麗だなと花びらを映していた瞳に、とうとつに将軍の顔が映った。
「うわぁ、城、城だ……っ」
しまった。口に出てしまった。慌てて両手で口を押える。
シャルったらちゃんと飛ぶよって言ってほしい。涙目になりながら周りの様子を見る。
どうやらシャルが飛びやすいように窓を開放してあったようで、外ではなくいきなり塔の内側……。陛下や将軍がいるところへと飛んだようだ。
「すまんなシャル殿。街の様子は聞いた。リオ殿が、弟子を持ち、弟子たちに任せていると」
はい?弟子?もしかして、あの子たちのこと?
なんか、情報がおかしなことになってる!
シャルが訂正してくれるかと思ってシャルの顔を見ると、楽しそうに笑って、陛下の誤解を解こうという気はなさそうだ。うええ、どうしよう。誤解は解きたいけれど、勝手にしゃべってもいいのかな?
じゃーん。新しい展開に突入?そろそろ餓鬼編おしまい。