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「お腹空いてる?どうぞ、食べて。あのね、お城の人がいっぱい用意してくれたの。好きなもの食べて」
【施餓鬼】
皿の上のパンの文字が、パンから施餓鬼に変わった。
いったいこの施餓鬼って何だろう。
食べやすいサイズに切ってあったパン。50ほどの切り分けてあったパンが次々に消えていく。
ぽんっ。ぽんっ。ぽんっぽぽぽぽぽんっ。
次々に餓鬼たちがかわいい音をたてて消えていく。
ああ、いい香り。
「こ、これはすごい」
兵たちが目を見開いた。
「おい、これ食って消えろ」
兵の一人が私と同じように皿を手に取り餓鬼に突き出した。
【パン】
ああ。表示が変わらない。
これは、サージスさん曰く「俺の酒が飲めないのか」現象が起きるのでは。
「うわぁ、待て、近寄るなっ!」
パンは消えず、餓鬼がそのまま危険な手を兵へと伸ばす。
兵が慌ててパンを持っていた皿を宙に放り投げてしまった。
「ああ、食べていいよって持ってきてくれたのに、食べて、落ちちゃうよ、落ちる前に食べてげて!」
【施餓鬼】
宙を舞うパンに施餓鬼の文字が見えたと思うと地面に落ちる前に消える。
「ありがとう、パンが台無しになるところだった。ありがとうね!」
ぽんっと音を立てる餓鬼たちにお礼を言う。
あれ?いつもより強い花の香がする。いい匂いの贈り物?
「何やってんの。リオは特別なの」
シャルがパンの皿を宙に放り投げた兵を侮蔑した表情で見る。それから、ふっと笑うと
「でも、悪くはない。リオの特別感の演出には役に立ったよ」
と、再び兵に話しかけた。
「あ、ああ、リオ様……」
兵がキラキラした目を向けてくる。
ああ、なんか周りの兵たちも餓鬼さんたちへの警戒はどこへ行ったの?私を見てる場合じゃないと思うんです。
「ぼ、僕が特別ってわけじゃ、あの、サージスさんも1回できてたし、何かコツがあると思うんです、そのコツさえわかれば……むしろ、そのコツが何なのか説明できなくてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる。
ヒントはきっと、【施餓鬼】っていう言葉なんだよね。
と、今はそれよりも……。
テーブルの上に並んだたくさんの料理を視界にとらえる。そして、次々と集まって来る餓鬼たちに向かって、なるべくたくさんの餓鬼に声が届くようにと大きな声を出す。
「いっぱい食べ物があるから、皆で仲良く食べてね!それから、私の言葉が届かなかった餓鬼さんにも教えてあげて!どうぞ、食べてって言っていたと!」
【施餓鬼:パン】【施餓鬼:リンゴ】【施餓鬼:干し肉】……。テーブルの上に並んだたくさんの食べ物が次々と【施餓鬼】に変わっていく。
「ここに今ある食べ物がなくなって餓鬼たちが消えなくなったら教えてください、あ、どうやって教えてもらえばいいんだろう?」
シャルが私の腰に手を回した。
おはようございます。
まだしばらく月木更新となります。よろしくお願いいたします。
時々は活動報告を見てもらえると嬉しいです(*'ω'*)