番外編
『がるるる、がるる』
フェンリルが、強靭な前足で、どすどすと地面から突き出た場所を叩いている。
『がるる、がるるるる、がる!』
フェンリルがしつこく叩き続けるものだから、地面がのそのそと動き始めた。
いや、地面ではない。
長年その場所で眠っていたため、いつの間にか体は土で覆われ、草や木が生い茂り、まるでちょっとした小山のようになった、フェンリルのかつての仲間である。
『がるがる』
『むき』
『がるーるるる』
『む?』
……。
会話を、ジャパニーズアイ的に翻訳してみよう。
「おい、起きろ寝坊助」
「うるちゃいな、なんの用でしゅか。僕は気持ちよくねてたんでしゅよ」
「ふへへへへ、自慢しに来た」
「自慢?」
かつての仲間が不満げにフェンリルをにらみつけている。
気持ちよく寝ているところを起こされたのだから、不機嫌になるのももっともだろう。
だが、その気持ちよく寝ている単位が、100年どころではないので、そろそろ起こされたとしても、十分寝ただろうと言われれば仕方がないが……。
自慢するために起こすとなれば別だ。
「怒りまちゅよ?何で僕が自慢を聞かされるために、貴重なちゅいみん時間を奪われなくちゃならないんでしゅか!」
「……いや、でも、これ、自慢できるのって、お前かあいつくらいしかいないし」
「はぁ?あいつって、もちかちて、あいつでしゅか?あっちに自慢しに行けばいいでちょ!」
「いやぁ、どこにいるかわかないからなぁ。おまえは、ずっとここにいるの分かってたから」
かつての仲間がふぅと小さくため息をついた。
「寝相がいいでちゅからね……」
寝相がいいという問題ではないというのをフェンリルは知っている。
かつては、寝返りを打っていた。そのたびに人間どもが討伐をしなければとやってきては周りで騒ぐので、ゆっくり寝ていられないと編み出したお貴族睡眠技だ。
なんでも人間の高貴なおこちゃまは、じっとして動かずに寝るという話だ。
「どちらにちても、自慢するために起こすなんて勝手すぎまちゅ」
ぷんすかと怒るかつての仲間に、フェンリルはふんふんと余裕を見せるようにゆったりとしっぽを揺らしてみせる。
「ふぅーん。親切のつもりだったんだが……。なら、先にあいつを見つけ出してあいつに教えて、あいつと2人で改めて自慢しにくるぞ?」
「なんでちゅかそれ!」
フェンリルがにぃーっと、楽しそうに笑った。
「今なら、逆に先に我の自慢話を聞いて、その後運が良ければ、あいつに自慢してやれるぞ?」
「もったいちゅける物言いは相変わらずむかちゅきましゅ。生まれ変わっても変わってないでしゅね」
「お前もなぁ、生まれ変わっても成長しないな」
今度は、かつての仲間がニヤリと自慢げに笑った。
「前世でも、僕はあいちゅの寿命のしゃん倍、お前の2倍ありまちたし、生まれ変わっても、僕は一番長寿でちゅし」
前世では子供だと馬鹿にされては怒っていたのに、今は長生きするのだから成長が遅くても仕方がないと逆手に取るとは。成長してないようで、しっかり成長しているじゃないかと、フェンリルは思った。
「ふんっ、寝る子は育つっていうのを信じて寝てるんだろ?」
だが、まだ子供だなぁと生暖かい目をするフェンリル。
「ち、違うでちゅっ、特にすることもないからでちゅっ」
焦った様子に、図星だなとフェンリルは思った。
「そ、それより、自慢ってなんでちゅか!早く言って、どっかに行くでしゅっ!」
ぷんすかと怒ったような口調になるかつての仲間に、フェンリルが口の端を上げた。
「食った」
「は?」
「懐かしくて、美味しかった」
「は?」
「キビ団子を、我はこの世界で食うことができた!」
「え、ほ、本当でしゅか、そ、それは、どこででしゅかっ!」
「ふふーん、じゃぁ、自慢したから、お望み通りどっかに行くとするか」
フェンリルがしっぽを嬉しそうにフリフリとして、しゅたたーっと、駆け出した。
「ちょ、まちゅでしゅっ!」
長年眠っていて、土に覆われ、木の根に体中縛り付けられているような状態のかつての仲間は、とっさにフェンリルを追うことができなかった。
まぁ、どちらにしてもフェンリルの方が素早く追いつくことはできなかっただろうが。
『がるるるー、るるー』
あいつを探してあいつにも自慢してやろう!などと思っているフェンリル。
『むききき』
かつての仲間は、本当に自慢だけしていくなんて大人げないっ!とフェンリルが去ったあとを恨めし気に見ていた。
2020年お付き合いいただきありがとうございました。
よいお年を。
さ、2020年最後は番外編です。
なんか、皆さん予想しているように、フェンリルには、ほかにあと2人(匹?頭?体?羽?)仲間がいます。
土に埋もれていたのは、いったい、何者なのか!巨大らしいです(*'ω'*)
それではでは!