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ん?確かに私は謝られてないけど、謝らなくちゃいけないのは私の方なんじゃないかな?さすがに生意気な口の利き方下ことだけは……。言った内容については謝らないけど。
「宰相の……、……、……、改めて……、……、リオ殿に……、……、……」
陛下の言っていることがついに聞き取れなくなってきた。
「これ以上近づくと危ない」
と、突然大きな声が聞こえてくる。
そうそう、塀沿いに走ってきたんだ。やっと次の穴の近くまで来た。つい腕輪から聞こえる会話に意識を持って行きすぎた。
兵たちが餓鬼と対峙している。
数にして10人くらいかな。その一人が、私に注意して前に立ちふさがる。
「あ、大丈夫です。餓鬼さぁーーーん、ほら、これ、食べていいよ。ナッツ、えーっと、何だろう」
塀の穴から出て来ようとしている餓鬼に聞こえるように大きな声で話かける。
「ナッツ?は?食べていい?何を言っているんだ」
私の前の兵があっけにとられた表情を見せる。
「この子は、自由に動いてもらう。陛下の許可も取ってある」
私の背後の頭上から声が聞こえる。渋い男の人の声だ。
「しょ、将軍っ!」
将軍?
振り返って見上げると、他の騎士たちよりも黒色の布の面積が多い騎士服を着た人がいた。
年齢40代後半か、50代前半だろうか。
まるっきり衰えなど見えぬがっしりとした体躯に、迫力のある雰囲気を持った大きな男性だ。いかめつい顔をしている。
強そう……。
ん?強そうで、将軍……。ああ!
将軍って、軍の一番偉い人の、あの将軍?
なんで、こう、次から次へと偉い人に会うの?って、城だ!ここ、城だ!そりゃ偉い人達だらけだよっ。
「このナッツは、この国では取れない輸入品だな。カシューナッツと言ったか。見たこともないのも当然だよ」
「ゆ、輸入品?え、もしかして高いですか?高いですよね……ど、どうしよう、勝手に持ってきちゃった……」
ふふっと将軍が笑う。
怖そうな顔も、笑うととても素敵だ。
「これはこれは、今気にするのは、まさかのナッツの値段……くくく。普通は迫りくるあやつを恐れるというのに」
将軍が剣を構えて、兵が取りこぼした餓鬼に備える。
「あっと、えっと、ナッツもらってもいいでしょうか、やっぱり返さないとダメでしょうか」
「あはは、心配ない、好きに使うといい」
将軍の言葉に、ほっとしてカシューナッツという名前を教えてもらったつるんとして丸まったナッツを手に取る。
「はい、どうぞ」
餓鬼に差し出すと、すぐにぽんっと音がして、差し出したナッツとともに姿を消す。
周りにいた兵たちにどよめきが起こる。