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「僕にもよくわまりませんけど、リオが食べ物を与えるとなぜかあいつらは消える。理由は不明。もしかしたら、聖女や聖人と言われる者の持つ浄化魔法に似た作業があるのかもしれませんが……」
そこでシャルがいったん言葉を切った。
いやいや、私は無能スキルしかないから、聖女や聖人とか全然違うと思うんだ。
サージスさんも一度成功させてるし。
でも、1度しか成功してない。成功したときと、失敗したとき、何が違うんだろう。
私と、他の人と何が違うんだろう。
「うむ、もしや、聖女様、いや、少年であったな、聖人様であるか、リオ殿は」
はぁ?
へ、陛下、何を言ってるんですか。
「ち、ち、違います、あの、僕はそんなたいそうな人間じゃないですっ」
慌てて否定すると、シャルがにやっと笑って、私の肩にぽんっと手を乗せた。
「リオは、そこにいる宰相様とは違って謙虚だから、僕を誰だと思っている、僕に逆らえばどうなると思う、死にたいのか、国から追放だ、いや牢屋にぶち込んでやるとかぜーーったいに言わないんだよ。どれほど優れていて、国にはなくてはならない存在だったとしても」
いやいや、私、実際に優れてないから言えるわけもないけど。
もし私がすごい人だったとしても、言わないけど。
人殺しや泥棒ならまだしも、たいして悪いことしてない人を牢屋に入れるとか追放するとか死刑とか、そんなこと言うわけないよ。
「火魔法スキル持ちは足りると思う?ねぇ、宰相さん?スキルの使用回数過ぎたらもう使えないよねぇ?リオなんて、食べ物があれば回数関係なくあいつら消し去れるんだよねぇ」
シャルが宰相を見た。宰相がぐっと押し黙る。
「城に行きたくないっていうリオを、僕はわざわざ無理やり連れてきたんだよねぇ、そうしたら、リオは牢屋にぶち込むとか、国外追放とか」
宰相が、じりじりと距離を詰めていくシャルから逃げるように後ずさる。
「ねぇ、陛下。これって、この国はどうなってもいいって言ってるようなものだと思うんですけど。リオのような聖人って、国に抱えたいものじゃないの?それを追放するとか、もしかして、宰相ってどっかの国の工作員?この国を滅ぼし乗っ取ろうと、どこかとつながってる?」
宰相の顔がさーっと青ざめる。
「わ、私は、違うっ、へ、陛下、決してそのようなことはっ」
宰相が取りすがるように陛下の前に跪いた。
視界の端に、塀で餓鬼を押し戻そうとしている兵たちが見えた。
「あ、ちょっと行ってきますね」
さっきの餓鬼さんたちの感じだと、ナッツ1粒でも十分みたいだった。
器の中のナッツの数は、パッと見ただけで30以上はある。
おっと。また甘えるところだ。シャルにちゃんと言わないと。