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「おい、何をしている?!火魔法の媒体にでも使うつもりか?」
兵がナッツを差し出した私を変な顔をして見る。
剣を構えている兵たちよりも前に歩いていく。
「待て、いくらあいつらは動きが遅く、攻撃も単調だからといってあまり近づいては危険だ!」
肩をつかまれた。
視線を兵に向ける。思わず、悲しい顔をしてしまったせいか、兵がひくりと手を震わせた。
攻撃も単調?
攻撃なんてしてないのに。悪意なんて全くない。人を襲うつもりなど少しもなくて……。
ただ、おなかが空いてさまよっているだけなのに……。
「食べていいよ」
ふっと餓鬼の手が伸びて私の手に触れそうになった瞬間、言葉をかける。
手に乗せていたナッツが消えて、ぽんっという音とともに目の前に迫ってきていた餓鬼が消えていった。
今の餓鬼は、他のものより少し背が高かったように思う。男の人だったのかな。
「どうぞ」
2体目の、背の低い餓鬼にも差し出す。
ぽんっ。
子供の時に亡くなったのかな。
胸が痛い。こんなことしかしてあげられなくてごめんね。
浄化魔法みたいなものだって言われたけれど、浄化されたらあなたたちはどうなるの?
苦しくなくなる?花の香のする素敵なところに行けるの?だったらいいな。
「な、何をしている、どんな魔法を使っているんだ?」
肩をつかんでいた兵が、私の横に並んだ。
「僕は、魔法は使えません」
器からナッツを取り、餓鬼に差し出す。
「食べて」
「いやだが、首を落としても倒せない、火魔法で頭を焼くしか倒せないあいつらが、消えているじゃないか」
4体中3体の餓鬼が消えたところで、シャルが陛下と宰相とやってきた。私の背後に並ぶ。
「見ました?陛下」
「ああ、見た。確かに、見たぞ。なんだ?ナッツがあいつらの弱点なのか?私にも倒せるだろうか?」
陛下が私の持つ器からナッツを一つかみ取り出し、餓鬼へと向けて手を伸ばす。
「ほれ、消えろ、ほれ」
餓鬼は消えることなく、ガガガグルルとうなりながらゆっくりと近づいてくる。
「ダメだ、どういうことだシャル?」
陛下がシャルの顔を見た。
「リオ」
シャルが私の名前を呼んだ。
小さく頷いて、陛下の手からナッツを受け取り、餓鬼に差し出す。
「はい、どうぞ」
ぽんっ。可愛い音を立てて、餓鬼が姿を消す。
「うむ、いい香りじゃ。いや、そうじゃないの。どういうことだシャル、説明してくれ」
陛下はシャルの名を呼び気安く話かけている。
シャルも結構ずけずけと陛下に対してもしゃべっているけれど……。
えーっと、大丈夫なの?
陛下は宰相にギルドとの仲が悪くなると困るとか言ってたから、シャルが多少失礼な態度をとっても許されるってことなのかな?
メリークリスマァス!
そういえば、サンタ鬼みたいなのなかったでしたっけ?