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「あははは、クッキーで倒せるのか、これさえ知れば、お前など用なしだ」
男が乱暴にシャルの肩をドンっとつき、走り出した。
堀にかけられた橋に向かって。
そこには餓鬼が1体いた。
『グガガガ』
餓鬼が手を伸ばした。
「馬鹿が!もう、お前らなど怖いものか!ほら、クッキーだぞ?これで消されるんだぞ?ほらほら」
男がクッキーを人差し指と親指でつまんでクッキーを餓鬼の顔の前で左右にふった。からかうようなその様子に気分が悪くなる。
『グルル』
餓鬼がクッキーに手を伸ばした。ふっと触れたとたんに、クッキーが黒焦げになり、男の手から残骸だけが地面にはらはらと落ちていく。
「は?」
男が目を見開いて茫然としている。
「ど、どういうことだ!偽物を私につかませたのか!」
振り返ってこちらをにらみつけている。
「偽物をつかませるもなもに、あなたが勝手にリオから大切なクッキーを奪ったんですよ?ああ、そう、本人の承諾なしに奪ったのって、窃盗っていう犯罪でしたっけ?」
シャルがにやりと笑う。
「馬鹿が、馬鹿が、窃盗だと?そんなどこの馬の骨ともしらぬ子供から、クッキー1枚もらったくらいで、この国の宰相でもある私を犯罪者呼ばわりするつもりか?どこまでも礼儀を知らないやつだ!」
宰相?
え?宰相なの?
「馬鹿はどっちかな。ほら、触られたら黒焦げになるよ」
シャルの言葉に振り返った男の目の前には餓鬼の手が伸びていた。
「うひぃーっ」
伸ばされた手を避けるように、男がしりもちをつく。
そして、そのまま四つん這いに餓鬼から距離をとる。
「あ、そっちからも来たよ」
シャルの言葉に宰相が慌てて顔をあちこちに巡らし、そして、私とシャルのいる方へと四つん這いで逃げてきた。
「私は宰相だぞ、こんなことをしてただで済むと思うな、早くここから城へ連れていけ!」
宰相がシャルの足にしがみついた。
シャルは冷たい視線で宰相を見下ろすだけで、飛ぶそぶりは見せない。
ただ、そっと私の手を握った。
「命令だ!命令に背けばお前など、すぐに首が飛ぶぞ!」
シャルの目は冷たいままだ。
「まだ、分からない?首が飛ぶのはどっちだと思ってんの?」
シャルの手にぐっと力が入り、さっきの塔に飛ぶ。
「シャル様、宰相様も」
今度は護衛の騎士たちに止められることなく、部屋のドアを開いてシャルがずかずかと部屋の中に入っていく。
ドアの前には腰を抜かして四つん這いになっている宰相。
「手を貸せ!あいつをひっとらえろ、この私に逆らったのだ!」
宰相が騎士たちに命じている。
宰相でしたー。
こんな宰相じゃぁ、この国、大丈夫かな
国王「好きなように国を動かすためにあえて無能な宰相を据えた」
……のだそうです。