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ばたんと扉が大きな音を立てて開き、中から口ひげを生やした細い50くらいの男が姿を現した。
「シャル殿、勝手に陛下のそばを離れるとは!まったく、ギルドには文句を言わせていただかなくては」
シャルがはぁーと、もう一度息を吐きだす。
「誰ですか、そのガキは。勝手にここへ連れてきてもらっては困りますよ。だいたいシャル殿も、こんなことでもない限り冒険者風情が立ち入ることができないと、立場を分かっているのか」
何、この言われよう。
「あの、お言葉ですが、シャルは冒険者ではなく、荷運者です。それから、立ち入りたくて立ち入るわけじゃないです。頼まれたからいやいやここにいるだけです」
思わず何も考えずに言葉を口にする。
「な、な、な、何だと?おい、この無礼者をとらえて牢屋へ入れろ!」
唾を飛ばしながら口ひげの男が騎士に命じている。
「立場を分かっていないのはどっち?」
シャルがバカにしたような顔をして、男の手をつかんだ。
ふっと視界が変わり、塔の窓から見えていた場所へと移動する。1つ目の塀と2つ目の塀の間だ。
周りには餓鬼のが10体ほどいる。3つ目の塀で戦うため兵たちはここにはいない。
「うわぁー、何をする、すぐに戻れ!こんなことをしてただで済むと思っているのか!」
喚き散らす男に、シャルが冷たい顔をむける。
「置き去りにしてもいいんだけど?ちょっと黙ってくれる?黙って、僕のリオを見て。それから、謝って。謝らないなら、僕たち国を出るから」
「はっ、どこまでも生意気な。国を出たければ勝手に出ろ。むしろ国外追放にしてやる!」
えーっと、えーっと、この男の人は一体だれなのか。私もムッとして言いたいこと言っちゃったけれど、シャルも言いたい放題だけど……。
国外追放なんてそんな……。
私のせいでシャルが……。
「ほら、リオ、来たよ」
振り返ると、餓鬼が2体近づいてきている。
「うわぁ、早く飛べ、飛べと命じている!」
男がシャルにしがみつく。
『ガガガガ』
餓鬼の唸り声に、男がひゃっと小さく飛び上がった。
「どうぞ。おいしいクッキーだよ」
餓鬼にクッキーを差し出す。
ぽんっ。
いつものように、音を立てて消えた。蓮の花の香りを残して。
「は?おい、何をした」
シャルの後ろに隠れていた男がぬっと姿を現し、私の手からクッキーを奪う。
「クッキー?何か特別なアイテムか?」
シャルがにやりと笑う。
「普通のどこにでもあるクッキーですよ、いえ、美味しいクッキーです」
もう1体の餓鬼に、最後のクッキーを差し出す。
「食べてね」
ぽんっと消える餓鬼を見て、男が笑った。
……いやぁ、どこにでもいますねぇ。威張り散らす人。
(´・ω・`)やだわぁ。
でもちょっと、リオもうっかりしてましたね。
自分のことでは怒らないけど、大切な人が悪く言われたらカッとなるタイプのようで……