14話
「効果は、薬草の1万倍」
「い、一万倍?」
すごく大きな数字だということは分かる。
「どうやら、死んでいなければどんな怪我でも病気でもたちどころに直せる薬ができるらしい」
「それ、本当?」
すごい!
「本にはそう書いてあるな。ただ、ドロップする確率は薬草の1万分の1」
そっか。薬草も1日に獲れる数がそんなにあるわけじゃないから、1万分の1って相当運が良くなきゃドロップしないのか。
ってことはレア中のレアだったんだね。本当にあれ。そりゃ、ハルお姉さんもナイーシュラさんも驚いて大慌てで走り回るよね。
「そして、厄介なのが……千年草はまたの名を調整草と呼ばれていることじゃろう」
「調整草?体の調子を調整するとか?」
千年に1度のすごい草なのに地味な名前だなぁ。
「いや、違う……。千年草がドロップする年には、毎度とてつもない厄災が人々を襲うらしい。前回は、新しいダンジョンが突然各地に出現し、そろってダンジョンからモンスターたちがあふれ出るスタンピードが起きたそうじゃ。その前は世界中をはやり病が遅い、何百万もの人間が犠牲になった。さらにその前は未曾有の天候不良により、作物が育たずやはり多くの人間がなくなりいくつかの国が滅んだそうだ。その前は、見たこともないようなモンスターが空から降り注ぎ、人々を食い散らかした。本には鬼と書かれている」
「鬼という名のモンスターなの?」
神父様が首を横にふり、神にペンを走らせる。
「こんな挿絵がついておった」
神父様が書いた絵は、まるで人間のようだ。とてもモンスターには見えない。人が、人を食べた?そんな恐ろしいことが。
自分の想像に思わず目を覆う。
【スキルジャパニーズアイ発動】
え?
まただ。頭に声が響く。今度は神父様が書いた絵に文字が見える。
【餓鬼。餓鬼道に落ちた人間の変わり果てた姿。常に飢えている】
餓鬼……?
「他にはこんなものもあったな」
神父様の絵に、描かれた絵にまた文字が浮かび上がる。【夜叉。鬼神】
夜叉……?
「どうやら、頭に角があるのが鬼の特徴らしい。人に似た姿をしているが、角を見ればすぐに違いが判るから問題ないじゃろ」
と、神父様がペンを置いた。
「とにかくじゃ、千年草がドロップする時には、何か人類の数を減らすようなことが起きる。そのため、息さえしていれば人の命を救うことができる千年草が、人類の数が極端に減って滅びてしまわないように数を調整するためにドロップするのではないかと……調整草とも呼ばれておるそうじゃ」
調整するって、人の数が……減りすぎないように調整って……。
どんな怪我も病気も死んでいなければたちどころに治るようなすごい薬がないと人類が滅んでしまうようなことが起きる?
それは本当なの?それとも大げさに後世に語られているだけ?それとも……。
ハルお姉さんやサージスさんたちが血相を変えていたのは、何も貴重なレア植物が手に入ったからではなさそうだ。
千年草ではなく、調整草と呼ばれる方の……何か起きるかもしれないということの方を心配してのことなのだろう。
これから、未来予知スキルとか、すごいスキルを持った人たちで対策を考えていくんだろうな。
私みたいな無能スキル持ちは……世の中に流されていくしかない。
うん、例えば、今ならお腹が空いたからご飯を食べようとか。
「しかし、突然こんな珍しいドロップ品について知りたいなんてどうしたんじゃ?」
「ギルドで仕事を紹介してもらうのにテストで出されて答えられなかったから……」
神父様が首を傾げた。
「変なテストを出すもんじゃのぉ……。それよりも、そろそろリオア、そろそろあの話を考えてはくれたかの?」
あの話というのは、神父様の助手をしないかっていう話だよね。
優しいから、神父様は。無能スキルしかない私に同情したのか、図書館整理や簡単な知識の伝授などの仕事をさせてくれようとしている。
だけれど、私は知識系スキルは何もない。速読も暗記も情報集約……。私なんかが助手になっても、皆に迷惑をかけちゃうだろう。
「ありがとう、神父様!また知りたいことがあったら教えてください!」
元気に神父様に手を振って神殿を後にする。
「うーむ、スキルは無いが、物覚えはいいし、頭の回転も速い。すでに神殿併設図書館の半分の本の知識は入っているだろうから、ぜひ助手に……ゆくゆくは後をついでほしいもんなんじゃがなぁ……」
神父様が何やらぶつぶつと言っていたけれど、何を言っているのかは聞こえなかったけれど、きっと仕事頑張るんじゃぞ。今度の試験は受かるといいなとか、そんなことかな。本当に神父様はいつもめんどくさがらずに私にいろいろ教えてくれる親切な人だから。