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そして、見上げる形だからすぐに発見できなかったけれど、よく見ればこめかみより上のほうに、細長い角が生えている。
「鬼……だ」
鬼の特徴は角。角が生えているのだから、鬼……。
「なんだ、リオ?」
「気を付けてください、サージスさん、あれは鬼です。過去の厄災でも現れたと言われる鬼……角がある人みたいな姿をしているのが鬼だと本に書いてありました」
サージスさんもガルモさんも、片時も警戒を解くことはない。
ただ、私の話を無視しているわけでなく、ちゃんと耳も傾けてくれているようで、すぐに返事が返ってきた。
「厄災の鬼……か。おい、リオ、シャルにつないでくれ」
シャルにつなぐ?
そうか。慌てて腕輪の石の部分に触れる。サージスさんは今手が離せないわけだもんね。
「シャル、シャル、聞こえる?」
「リオ?何?どうした?」
「サージスさん繋がりました」
サージスさんが話しやすいようにと、サージスさんの動きや視界を邪魔しないように気を付けながら腕をサージスさんに近づける。
「おいシャル、アレはまだ街にあふれてるのか?」
「当然でしょう、どんどん増えてますよ」
「じゃぁ、食べ物を用意しろとギルドに伝えろ」
「は?食べ物?」
「時間がない。リオを迎えに来い」
「なっ、リオに何かあったんですか?分かりました。陛下の護衛なんかやってられない」
え?えええ?
「シャル、大丈夫です、あの、僕は元気なので、ちょっと、サージスさん、どういうことですか」
「今からここが戦場になる」
あ。
サージスさんとガルモさんが、あの大きな鬼と戦うってことだ。
私を守りながら戦うのはふりだと、私が足手まといだと、そういうことなんだ。
戦力にならないどころか、邪魔にすらなってしまう自分が悔しくて下唇を噛む。
「リオ、お前は街の餓鬼だったか?あいつらを倒してこい」
王都にいる餓鬼を?
「ここは俺の戦場、リオはリオの戦場に向かえ」
ここは、サージスさんの戦場?
私には私の戦場が……。
私にできること……私でも役に立てる場所に……。
「分かりました……シャル、迎えに来て。でもその前に、いくつかしてほしいことがあるの」
腕輪に向かって話かける。
「何?」
「今から伝えることをギルド、いえ、陛下?兵のみんなにも伝えて欲しいんです。まずサージスさんの言っていた食べ物を用意するのは、材料じゃなくてすぐに食べられるもの。材料は調理して食べられるようにして。たくさんの器も並べておいて」
シャルがちょっと息をのむ。
いつもありがとう。
感謝なのー。