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【敵に塩を送る:上杉謙信が武田信玄に塩を送って助けたという話に基づいた言葉】
分けの分からない文字からそっと視線を外して、ごくりと小さく唾を飲み込む。
サージスさんと会話をしながらも、肉を焼く作業は止めない。
サージスさんは、木の実の器にちゃんこを注いで地面に並べていく。
「あれは……餓鬼という鬼なんです。ずっと昔の厄災について書かれた本に載っています」
「すごいなリオ。そんなことまで知っているのか」
フルフルと頭を横に振る。
「千年草について何も知らなかったので、慌てて神父様に教えてもらいに行ったから知っているだけで……」
どうしよう。この先の話はジャパニーズアイで知ったことだ。本に書いてあったわけじゃない。だから、本当のことなのかどうかも分からない話だ。でも、伝えたい。
「餓鬼は、かつて僕たちと同じ人間だった……そうなんです。飢えによって餓鬼になってしまったと。餓鬼の姿で常に飢えて食べるものを求めているらしいんです……」
サージスさんの手が止まる。
「なんだって?モンスターじゃないのか、人間?いや、もともと人間だったモンスターもいるか。スケルトンやゾンビがそうだな。この餓鬼も……飢えに苦しんで死んだ人間のなれの果てか……」
サージスさんが、地面に器を置くと、だだっと走り近くにいた餓鬼頭を両脇にがっちりホールドして戻ってきた。
いや、捕まえた。餓鬼頭を捕まえてきたよ。
「大変だったな、お腹がすくのは本当に苦しいよな。死んでからもずっと飢え続けるなんてどんな苦しみか分からないけど、まぁ、今は食え。な。お腹いっぱい……って、お腹がないな?頭いっぱいに食えっていうのか?んー、なんでもいい、ほら、食え」
サージスさんが両脇に抱えた餓鬼頭をほいっと器の前に据え置いた。
ぽんっ。
ぽんっ。
器が空になり、餓鬼頭が消える。
「うおう、俺の勧めた飯を食ってくれたぞ!なぁ、見たか?よし、次々に食わせるぞ!」
サージスさんが嬉しそうに笑った。
よかった。
私のしたこと、サージスさんに否定されなかった。
元は人間といっても、今はモンスターだ。鬼だ……と。食べ物をあげるなんて馬鹿なことをするなと言われなかった。
ほっとして、また涙が落ちそうになる。けど。
「サージスさん、食べさせる前に、あの、薪がもうなくなりそうで。あと鹿もさばいてほしいです。ちゃんこも残り少なくなってきたんで作らないといけないし、作って煮てる間は肉を食べてもらうしかなくて」
食べさせてあげてもいいんなら、できるだけ皆に食べさせてあげたい。
ああそうだ。フェンリルさんも肉を食べにくるんだよね……。
「おう、そうか。よし分かった」
サージスさんもできたよー。
あ、一応言っておくと、首を落とすとか落としても死なないとか、アレの真似じゃないです。
どっちかいうと、イメージしてるのは、千と千尋のなんか頭3つです。
それから、おどろおどろなど、頭だけの姿をした妖怪は他にもいろいろいますしね。
危険な部位→手
危険ではない→頭
を、切り離して話を進行したかったのと、「切っても死なない」というのがトカゲっぽいなぁというのとで、こんな感じになりましたとさ。
あまりに目立つ人気作品がある時は、何でも真似したと言われかねないので念のために書いておきます……。(´・ω・`)