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「食べていいよ」
肉に火が通ったのを確認できたので、餓鬼頭さんたちに声をかける。
【施餓鬼:施食会と呼ばれることもある】
ああそういえば、ジャパニーズアイの重ねがけがしてるから文字が多いのか。
ふっと、肉が消え、ぽんっと音がして花のいい匂いとともに餓鬼頭が消えていく。
もしかして体に戻ったのかな。
それとも、喜びの表現がぽんっていう音で、ちょっと消えてまた現れている?
餓鬼頭さんの数が減ることはなく増えて行っている。
……えーっと、向こうの方でサージスさんとガルモさんが量産してるから……だよね。
30、40と……。
「あーっ、やっぱり駄目だぁ、助けてぇ~!」
思わず声を上げる。
はっ。しまった。この声でさっきはフェンリルがやってきちゃったんだ。
どすーん。
……背後で音が聞こえる。
えーっと、これって。
振り返ると、フェンリルがいた。
『ぐるるるるるー』
【肉だ】
フェンリルが口にくわえていた大きな鹿をどさりと地面に落とす。
尻尾が大きく横に揺れている。
【ほめてほめて】
ん?しっぽにまで文字が見える。
「ありがとう、こんなに大きな鹿、いっぱいお肉がとれて助かります」
【もっともっと】
しっぽにまた文字が。
まさか……?
「あの、さすがフェンリルです。こんな大きな鹿をあっという間に持ってこれるなんて、すごいです」
ぐるんぐるんとしっぽが回る。
【ワンワンワンッ!】
『ぐるる』
【もっと狩ってきてやる】
あー。えーっと。
「リオっ!」
ブンッと向こうから剣を思い切り投げつけるサージスさんの姿が見える。
ぎゅーんと飛んできた剣を、フェンリルは前足の爪先でちょんっと触れ、たたんと駆けだした。
フェンリルの前足で軌道を変えられた剣が、ブスリと肉にめり込み、そのまま地面に肉を縫い止めた。
「リオ、リオ、大丈夫か!」
刺さった剣を、鹿から引き抜いて、サージスさんが周りを警戒する。
「一体どういうことだ。またフェンリルが現れるとは……。リオを狙っているのか?」
うーん、うーん。どうしよう。私が助けてと口にしたから助けに来てくれたと説明すべきか……。
「あの、えーっと、その鹿……」
「鹿?おう、いつの間に、鹿が!ん?あれ?」
気が付いてなかったの?フェンリルに対して警戒するあまり、他のことが見えてなかった?
すごい集中力といえばいいのか。
「焼いて、山椒をかけると鹿肉も美味しいと思います」
「ああ、そうだな、って、リオ、今はそれどころじゃないのは分かってるのか?フェンリルだ、フェンリルが出たんだぞ?しかも、どうやらリオを狙っている」
「違うんです、えーっと、たぶん、その……さっきフェンリルが猪の焼いて山椒をかけた肉を食べて立ち去って、その鹿を持ってきたんです」
嘘は言ってない、何も嘘は……。
チクチクと隠し事があることに心が痛むけれど、嘘はついてない。
どうも!
餌付けされたフェンリルが、行ったり来たり。
フェンリルのしっぽにまでジャパニーズアイが勝手に言葉をつけ足している。
え?ジャパニーズアイが勝手に動いてんの?
( ゜Д゜)