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『ガガガ』
【食べたい】
はっとして、花の香りに動きが止まっていたことに気が付く。
「ああ、ごめんね、今すぐつぐね」
そうだった。餓鬼さんは、勝手に鍋の中から食べたりしないお行儀のよい人達でした。あ、人じゃないな。モンスター?鬼?よくわからないけど。
先ほど置いた器は空になっている。手も触れずに近づかづに餓鬼さんは器用に食べているみたいだ。
えーっと、木陰からのぞいている頭の数はどんどん増えている。
増えているのか、ぽんっと音を立てて消えたように見えたけど一瞬姿を消しただけで実はまだいるだけ?うーん、見分けがつかない。
もっと食べたいのかな?
食べるの一瞬だもん。器についでいくの間に合わないよぅ。
じゅうじゅうと串にさした肉がいい感じに焼けているのが目に入る。
山椒をぱっぱと振りかけて仕上げる。
【肉の山椒焼き】
「どうぞ」
と、肉も食べてねと声をかける。
【施餓鬼】
ん?
肉の山椒焼きに浮き出た文字が変化する。
ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ。
次々に音がして、あっという間に串に刺した肉が姿を消す。
「ああ、間に合わない、ちょっと待ってて、すぐに焼くからね?」
串……というか、その辺に落ちていた木の枝なんだけど、慌ててすぐに肉を切り分けて刺して火のあたる場所に設置。
それから、器にちゃんこをついでいく。
タライよりも大きな鍋にいっぱい作ったちゃんこも、もう半分もない。大きな獣の肉もどんどん減っている。
森に目をやると、木の間からちらちらとこちらの様子をうかがう角の生えた頭。ころりころりと地面を転がって遊んでいるものもいる。
絶対、足りないよ。足りない。どうしよう。
目の前で他の餓鬼が食べてるのを見てるわけでしょう?それなのに後から来た餓鬼さんたちには「もうないです、おしまい」なんて言える?
どうしよう、どうしよう。
「あーん、誰か助けてーっ!」
思わず叫び声をあげる。
食材を持ってきて!お金は払うよ。せっかく稼いだお金だけれど、自分のお金だもん。パーティーのお金を使うわけじゃない。私のお金だったら、どういう使い方してもいいよね。
防具とかそろえるのがちょっと後になっちゃうけど。でも、今は……。
『ガルル』
【ちょうだい】
片目をつむる。【スキルジャパニーズアイ発動:二重】
それからもう一度。【スキルジャパニーズアイ発動:三重】
【餓鬼:餓鬼道に落ちた人間の変わり果てた姿。常に飢えている】
常に飢えている。
お腹空いているのは苦しい。
空腹すら感じなくなってしまえばいっそ楽になるのに。
常にお腹が空いている状態はそれほど大変なのか……。
ドスンッ。
うおうっ。
本当は、山賊焼きを出したかったの。
でもさ、山賊焼きって検索したら、どうにもレシピが違いすぎて、出せなかった。
肉を山賊焼きにしたいの。
ジャパニーズアイで【山賊焼き】って出したかったの。
リオに「へ?山賊?」って驚かせたかったの。
ぐすっ。