12話
「おい、どういうつもりだ。いくらなんでも値段が合わないだろ?アイツらの稼ぎなんて知れてるんじゃないのか?」
「いいのよっ。これは大事なことなの!鑑定スキルを持った人間が不足してるのは知ってるでしょ?スキルがないのに鑑定スキルを持った人レベルでドロップ品に詳しいなんて逃がす手はないわ!」
サージスさんとハルお姉さんが何やらぼそぼそと会話をしている。
「リオ、仕事を紹介する前にテストをするわ」
ハルお姉さんが振り返った。
「テ、テスト?」
不合格だったら、仕事を紹介してもらえないとか?ど、どうしよう。
「はい、これ。ポーションの材料になる薬草はどれでしょう」
目の前に、葉が5枚くらいついた草が10置かれた。
「これが、テスト?」
首をかしげる。
「そうよ。薬草の知識はない?」
「いえ、あの、こんなに簡単でいいんですか?これと、これと、これがポーションの材料になる薬草です。スライムを倒すと10匹に1匹ほどの割合でドロップする品ですよね?スライムが他のモンスターと違うのは、倒すと全部のスライムが何かをドロップする。残りの7つ……いえ、6つは偽薬草と言われるもので、よく間違えるものの代表ですね。あと残りの1つは……初めて見ました。すいません、勉強不足で……」
あ!
テストって、これ?この見たことのない第三の葉が何かを答えるのがテストだった?……だとしたら、不合格だ。
青ざめる私の横で、サージスさんが薬草と、偽薬草を持ち上げて見比べている。
「分からん。本当に違うのか?」
ハルお姉さんが首をかしげる。
「薬草が3つ。正解よ。でも、それ、初めて見たって?えーっと、同じ偽薬草だと思うけれど?ナイーシュラ鑑定してもらえる?念のためね」
ハルお姉さんがカウンターの向こう側のギルド職員に声をかけた。
「もう、忙しいのに。薬草くらい、見分けられるでしょ?スキル発動【鑑定】」
5、6mは離れているだろうか。あの距離からでも鑑定魔法を使えば何か分かるんだ。本当にスキルってすごいなぁ
私は、手に持てる距離にないと、薬草と偽薬草の見わけもつかない。全然だめだ。
鑑定結果を見たとたんに、ナイーシュラさんが大慌てでカウンターの外に出てきて、謎の薬草を手に取った。
「いや、どうして?どう見ても、これ、偽薬草……まさか、いやそんな……」
突然ナイーシュラさんに両肩をつかまれる。
「どうして、分かった?どう見ても偽薬草だろう?スキル発動【鑑定】……スキルジャパニーズアイ?それで見ることができたのか?」
ああ、私を鑑定したのか。ジャパニーズアイ……はただの無能スキルだ。
小さく頭を横に振る。
「あの、ほら、ここが少し違うんです」
モンスターを倒して手に入るドロップ品は、一寸たがわず同じ形をしている。
自然に生えている植物なら、葉の形一つとっても、まったく同じ大きさで同じ色で、同じ姿のものは無いだろう。だけれど、ドロップ品に関しては全く同じだ。葉の枚数から大きさ、形。だから、一度特徴をしっかり頭に叩き込めば、偽薬草と薬草の見分けは容易にできるようになると思う。
「は?」
「ほら、この葉脈、少し右に寄ってませんか?」
ナイーシュラさんに指をさして教えると、手元をハルお姉さんが覗き込んで、首を横に振った。
「偽薬草と薬草の違いは、このぎざぎざの葉っぱの先が、少し丸みを帯びているかとがっているかで見分ける、初めは同じようにしか見えないけれど、ずっと見続けていれば見分けられるようになる……というのはギルド職員では普通だけれど」
そうか。やっぱりドロップ品を見分ける能力なんて普通なんだ。
そうだよね。私はスキルがない分頑張っているつもりになってただけで、
実際は頑張って、それでやっと普通なだけなんだ。もっと頑張らないと。