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【施餓鬼】
あっという間に、ちゃんこが消える。20個くらいの器の中身が一瞬。
えーっと。もしかして、食べていいよっていうまで食べないの?
すごく、お行儀がいい……んだ。
やっぱり、悪い者には思えない……。これが鬼なの?厄災だと言われている鬼なの?
ああ、でも。食べ物が不作で人間も食べるのが大変な時に出てきたら困るかもしれない。
人の食べ物を奪われたら、困る。そっか。今は食べるものがここには十分あるから全然平気なだけで……。
「みーっけ!リオ、みーっけ!って、うお、リオ、熊がいる、逃げろっ!」
サージスさんが私を背にかばうようにして走り寄ってきた。
「熊?」
どこに?
きょろきょろとすると、サージスさんの向こう側にいたガルモさんもきょろきょろとする。
「熊?どこだ?」
サージスさんがうわぁと悲鳴を上げた。
「リオ、あの熊、しゃべるぞ!もしかしたら高位モンスターかもしれないっ!」
緊張が走る。
サージスさんからびりびりとした気を感じる。ダンジョンの100階層でボスと対峙しているときよりも強い気だ。
「何?高位モンスターが出ただと?」
ガルモさんからも強い気が放たれる。
サージスさんが剣を構え、ガルモさんが大きな斧のような武器を構えた。
【鉞】
「武器を使う熊型モンスター……厄災の影響で熊がモンスター化したのか?」
どこにいるの?
きょろきょろとあたりを見回す。
サージスさんの視線の先を見るけど、私の目にはモンスターの姿は見えない。
あ、餓鬼さんたちがサージスさんたちの気に驚いたのかどっかいっちゃった。
はたと、熊っぽい生き物なんていないと思ったら、ガルモさんの姿が目に入った。
「って、ちょっと待って、サージスさん、熊なんていません、まさかの、まさかですけど、人間ですっ。ガルモさんは人間ですっ!」
「え?あー、ガルモ?人間?あれ、熊じゃなく?」
サージスさんが剣を下ろしてガルモさんを指さす。
「おいどんが、熊?」
……なんという……ことでしょう……。
「くはははは、おいどんを熊と間違えたのか、はははっ、そりゃ面白い」
ガルモさんを初めて見た時に、私も確かに熊みたいだと思ったけど……。
サージスさん、いくら何でも、人と熊を見間違えるなんて……。
「あ」
と思ったら、ガルモさんは仕留めた獣の皮をはいだものを手にもっていた。黒っぽい毛皮……で体が隠れてる……半分。
こりゃ、まあ、うん……。間違えるかもしれない。
声を上げてガルモさんの手に持っている毛皮を指さす。