104話
お食事中ご注意ください
『ガガガ』
【ちょうだい】
え?タイミング的には餓鬼が唸り声を上げたタイミングで文字が出る。
「ちょうだいって、言ったの?」
『ガグガガガ』
耳障りな餓鬼の唸り声。
近づけば近づくほど据えたような臭い匂いも強くなる。
ああ、この匂い……この匂いは……。
死んだ人の匂いだ。
誰にも看取られず死んで、そのままにされた死んだ人の匂い。
ぎゅぅっと胸が締め付けられる。
昔のことを思い出す。そう、この匂いを嗅いだあの時のこと。
「こら、近づいちゃ駄目だ。無能スキルしかない人間なんだ仕方ないさ」
「お前はちゃんと有能スキルがあるからな。あんなみじめな死に方はしなくて済むさ」
子連れの親子が死体を見つけて子供の頭をなでながら去っていく姿を見た。
ちょっと苦しくなったけれど、すぐにお母さんが私を抱き上げてくれた。
「スキルなんて関係ないよ。あの人は自分を大切にできなかっただけだからね」
死体には大きな切り傷が見える。
「リオナは、自分を大切にしなさい。どんなにすごいスキルがあろうと……スキルが無かろうと。私たちはリオナのことが大切だし大好きだよ。リオナはリオナを大切に思う私たちのことが嫌い?」
まだ小さかった私。小さな手で思い切りお母さんをぎゅっと抱きしめた。
「お母さんもお父さんも、みんな好き」
「だったら、お母さんやお父さん、リオナを大切だと思う人のために、自分を大切にするのよ。お母さんと約束してくれる?」
お父さんが、穴を掘る手を休めて私を見た。
「リオナ、何度も無能スキルしかないから仕方がないと思うこともあるだろう。思ったってかまわない。だけどな、こうして穴を掘るのには手を動かさなければならない。穴を掘るスキル持ちがいれば、世界中の墓穴をあっという間に開けられるわけじゃないだろう?結局、有能スキル持ちだけじゃ世界は回らないんだ」
お父さんが何を言いたいのかよくわからなかった。
お母さんがぎゅっともう一度しっかり抱きしめてくれる。
「世界が回るために必要のない人間なんていないってことよ」
お父さんが掘った穴に死体を寝かせた。
「さぁ、リオナ、手伝っておくれ。彼はみじめに死んだんじゃないよ。自分を大切にできなかっただけだよ。きっと寂しくて辛くて大切にすることを忘れてしまったんだ……最後に、思い出させてあげなさい。お花をつんでおいで」
お父さんの言葉に、大きく頷いて、お母さんの手を離れて花を摘みに行った。
綺麗なお花をあげよう。
自分を大切にすることを忘れるくらい辛くて寂しいなんて、かわいそう。私のように、ぎゅっとしてくれるお父さんやお母さんがいなかったのかな。いたけど忘れちゃったのかな。思い出せるといいね。
両手いっぱいにつんだ花を、お父さんが土をかぶせた上に飾た。
その瞬間、さぁっと風が吹いて、花が舞い上がった。
「ほら、ありがとうって言ってる」
青空に舞い上がった白い花がひらひらと落ちてくるのを見て、その時の私は何を思ったんだったっけ……。
……。
死体の匂いが強くなる。
胸が苦しい。
えー。前書きに、お食事中ご注意くださいと……亡くなった方の描写があるので書いたわけだけど……
あれ?よく考えたら、この作品自体、お食事中ご注意くださいばっかりじゃないか?
(´・ω・`)
これほど、食事に合わない作品も珍しい。
食べてるのに。
うーむ。
さて、いつもご覧いただきありがとうございます。
想い出の中に出てきた両親。
死んでないぞー!
そして、いい人だぞー!
親に搾取はされてないぞー!
誰かに必要とされるのはとても幸せなこと。
あ、この小説読んでくださっている時点で、評価してくださったり感想くださったり、ブクマしてくださったり、その時点で、あなたは、私にとって必要な方。
他の作家さんもそうだよ。
読んでくださる方は必要な方。小さな小さなことだけれど……本当だよ。
そして、生まれて来てくれてありがとう。
本当に書くのが辛い時に、何でもないちょっとした「面白かった」って感想を見て救われたことが何度あることか。
逆に、小説を書いてる私を必要だと思ってくださる方がいればとても幸せ。
というわけで、読んでくださってありがとうございます。
感謝です!