1話
よろしくお願いします。
冒険者とは、ダンジョンでモンスターを倒してドロップした品を売り生計を立てる者たち。
荷運者とは、ドロップ品が価値のある物か見定め拾い集めて運ぶ者。
「スキル発動【火炎魔法D】」
洞窟のようなダンジョンの中が一瞬にして明るくなる。
火属性魔法のスキルを持つアリシアさんが、モンスターに向けてDレベルの魔法を放った。
大型ネズミのような形をしたモンスターに命中すると、すぐに光となってモンスターは姿を消し、代わりに何かを落とした。
「ほら、さっさと拾ってきなさいよ愚図!」
アリシアさんが私のお尻をイライラした様子で蹴った。
「あの、でも、そろそろ運べる量の限界で……」
荷物を運ぶのは、荷運者私の仕事だけど……。
背中に背負った鞄はすでにパンパンだ。右肩と左肩につりさげた鞄の中身もそろそろいっぱいになる。
「はぁ?何か言ったか、クロ」
アリシアさんの隣の背の高い剣士、フューゴさんが私の頭の毛をひっつかんで引っ張り上げる。
痛いっ。髪の毛もげる、もげるっ。
「お前みたいな”無能”をパーティーに入れてやってる俺たちに口答えか?なぁ?俺のスキルはなんだった?あ?」
フューゴさんの質問にすぐさま答える。
それが、この冒険者パーティーロードグリに荷運者として雇われた3か月前からのルールだ。
早く答えないと髪の毛抜けそう……。
「上級剣士スキルです。剣を持てば通常の人の3倍のスピードと威力が発揮できる素晴らしいスキルです」
「ああそうだ。俺は優秀なんだよっ、で、お前はどんなスキルを持っていたんだったかな?」
このやり取りも、この3か月の間にほぼ毎日繰り返されている。
フューゴさんは知らなくて聞いているわけではない。
「……ジャパニーズアイです」
小さな声で答える。
5歳になると誰にでもスキルが1つ与えられる。
剣士スキル、各属性の魔法スキル、闘士スキル、投擲スキル、槍術スキルなど、戦闘に特化したスキルを得る者。
計算スキル、工芸スキル、馬術スキル、情報収集スキル、記憶スキルなど、商売に役立ちそうなスキルを得る者。
そして……いい夢が見られる、親指が逆に曲がるなど、何の役にも立たない無能スキルしか得られない者……。
「聞いたことないスキルよねぇ、ジャパニーズアイってどんな能力が発揮できるんだったのかしら?」
面白がって、アリシアさんが私の顔を覗き込む。
「目が……」
「目が?」
スキル名を聞いても誰も効果を知らなかった。だから、すぐにスキルを発動させた。
5歳のその時から、私の左目は……。
「そう、思い出したわ。目が黒くなるスキルよね。しかも、片方だけ!」
ケラケラとアリシアさんが笑い出す。
「あはははは、役に立たない無能スキルは世の中にごまんとあるけれど、目が黒くなるだけ、しかも片方だけとか、役に立たないどころか、無駄に迷惑なスキルよねぇ。あははは」
スキルジャパニーズアイ……。片目だけが黒くなるクズスキル。
アリシアさんの言葉に下を向く。その通りだ。役に立たないどころか、片目だけ黒い私を不気味がる人もいる。
「思い出したか?なぁ、無能野郎。お前みたいな無能スキルしかない荷運者を入れてやってんだ、何口答えしてるんだよ」
フューゴさんが髪の毛をつかんだまま、前後にゆする。
痛い、髪が本当に抜けちゃう。
「ごめんなさい……」
分かっている。私は無能スキルしか持っていなくて役立たずだ。
荷運者の多くは、鑑定スキルや身体強化スキルなど荷運に役立つスキルを持っている。
鑑定系のスキルはドロップした品の価値を判断してより価値の高いものを選んで持ち帰ることができる。
私には鑑定スキルがないから、懸命にドロップ品について勉強するしかなかった。
身体強化系のスキルがあれば、たくさんの荷物を運ぶことができる。体を鍛えたけれど、私は……男のふりをしているけれど女だ。どれだけ鍛えようと、女の力では男には勝てない。
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