8.これから
前回の話がちょっと短かったので、連続投稿です
「その、俺はこれからどうなるんでしょうか?」
「ああ。心配しなくても、ロストチャイルドは国からの支援体制が確立されているんだ。その、ロストチャイルドとして発見されるのは若年層がほとんどなのと、そういう場合、大抵家族を失っているから、ね」
「そう、ですか」
ジュライさんに伝えることは出来ないが、確かに俺も家族を失っている。
ただそれは、召喚される直前のことだ。
そもそも勇者召喚は、別の世界にある命の危機に瀕した人間を呼び出す魔法らしい。
俺たち家族はバスで父さんの実家に向かう途中、事故にあって崖からバスごと落下した。
事故の原因は何か分からないが、あの高さから落ちたんだ。
召喚された俺以外は全員助からなかっただろう……。
それとも、俺のいた世界と同じなようで違うこの世界なら、俺の家族や……もしかして俺自身も生きていたりするんだろうか。
と、そこで、俺は大きな問題に気付いた。
「あ、でも俺、身分証とかも持ってないですけど……」
「大丈夫。ステータスカードはダンジョン時代における万能の身分証だ。戸籍がどうとかの心配はいらないさ。君が望むならすぐにでも学校に通うことが出来るだろうし、もしくは……」
「ダンジョンを探索する冒険者にもなれる、ですか?」
俺がジュライさんが濁した言葉の先を口にすると、ジュライさんは驚いたように目を見開いた後、「その通りだ」とうなずいた。
ロストチャイルドはステータスが高い傾向にあるという。
ならロストチャイルドに対する支援が手厚いのは、彼らにダンジョン探索をしてもらうという思惑もあるのだろう。
「ジュライさん。俺、冒険者になります」
「いいのかい? オレが言うのもあれだが、危険な仕事だぞ」
ジュライさんにはそう言われたが、心は決まっていた。
(本当なら、もう二度と戦うつもりなんてなかったんだけど、な)
とはいえ、自分の力で生活していくとなると、異世界帰りの力をもっとも活かせる舞台は、どう考えてもダンジョンだ。
それに……。
(今さら学校に行って同年代と仲良く勉強、ってのも、なんかしっくりこないんだよな)
ネクストマーチで修羅場をくぐってしまったせいか、正直普通の学生をやれるような気がしない。
それに、ダンジョンを調べていけば「元の世界」に戻る手がかりだって見つかるかもしれないという思惑だってある。
「大丈夫です。幸い、俺は強いみたいですし、無理はしませんから」
「そう、か。まあ君ほど強ければ、生活していくだけなら問題ないだろうな」
ジュライさんはまだ渋ってはいたものの、やがて納得したようにうなずくと、俺に手を差し出した。
「なら、これからは後輩だな。よろしく、新人冒険者くん」
「気が早いですよ。でも、ありがとうございます」
差し出された手を、がっしりと握り合う。
こうして俺は、元の世界によく似た別の世界で、「冒険者」としての道を歩み始めたのだった。