70.支援魔術師は要らないとパーティを追放された私が世界一のすごいです係になった件について ~今更戻ってくれと言われてももう遅い! 私を溺愛する最強の氷魔法使いと一緒に楽しく生きていきます!~
初めてですよ……
この私に「サブタイトルは100文字以下で入力してください」と言って投稿失敗させたおバカさんは……
「……なんか、疲れちゃったな」
座間さんが先生たちに連行されるように連れていかれてからも、わたしは周りの人たちから口々に声をかけられた。
「大丈夫、宇津木さん?」
みたいな心配をしてくれる言葉や、
「宇津木さんめっちゃすごかったね!」
みたいな好意的な言葉ばかりだったけれど、そのほとんどがこの試験の前には話したこともないような人たちばかり。
別に悪い人たちというわけではないんだろうけど、あまりにも露骨な手のひら返しに少しもやもやしてしまった。
それに、何よりも一番驚いたのは、わたしの前のパーティの人たち。
あの人たちは平然とわたしの前に来ると、「オレたちのパーティにもどってきてもいいぜ」とわけの分からないことを言い始めたのだ。
「ちょうど美夜がいなくなって欠員ができたとこだし、お前もラッキーだったな」
なんて彼らが言い出した時は、さすがに空いた口がふさがらなかった。
もちろんそんな提案を飲むはずがない。
わたしが当然断ると、
「せっかく誘ってやったのにバカな奴だ! 後悔するなよ!」
と怒ってどこかに行ってしまったけど、後悔するのはたぶんあの人たちだと思う。
あんなにたくさんの人が見ている前で、前の仲間を切り捨てるようなことを言ってしまったら、もうあの人たちとパーティを組みたがる人なんていなくなってしまうだろう。
(……まあ、いいや)
嫌な人のことは刹那で忘れてしまうことにして、わたしは休憩時間に入ってすぐに試験会場から離れた。
迷惑かもしれないと思いながらも、なぜだかどうしても声が聞きたくなって、気付けばわたしは風流さんに電話をかけていた。
「もしもし、朔?」
数コールの後、いつもと変わらない風流さんの声が聞こえて、わたしはホッとした。
「風流さん! あ、えっと、今大丈夫ですか?」
「ああ、平気平気。あー、まあちょっと電波悪いみたいだけど」
確かに、聞こえてくる声はところどころ途切れているし、たまに破裂音のようなノイズも乗っている。
「あ、もしかして、今ダンジョンの近くですか?」
「おー、よく分かるなぁ」
感心したような風流さんの声に、わたしはつい調子に乗ってまくし立てる。
「ダンジョンの魔力って、通信に干渉しちゃうらしいんです。だからダンジョンの手前とか、ダンジョン内部でも天井とかのない吹き抜けの場所とかだと電話とかネットが通じることもあるみたいですけど、それでもやっぱり独特なノイズが混じっちゃうみたいで……。あ、だけど最近、ステータスカードの機能がアップデートされて、ダンジョンの影響を受けずに一部のダンジョン関連のサイトとかがカードから見られるようになったみたいですよ」
「へぇ、知らなかったよ。すごいな、朔は」
「ま、まあ全部授業の受け売りですけどね。えへへへ」
同じ誉め言葉なはずなのに、なぜだろう。
クラスの人たちに言われるより、風流さんに褒められた方が何倍もうれしい。
こんなことだけで、養成校に通っていてよかったな、なんて思ってしまうのは、さすがにチョロすぎだろうか。
火照った頬の熱さをごまかすように、わたしは早口で尋ねた。
「そ、それで、そんなところで何をしてるんですか?」
「ん? ああ、次に攻略予定のAランクダンジョンあるだろ。今はその予習をしてるんだよ。ほら、例のアレがあるから今ダンジョン攻略して目立つ訳にもいかないけど、暇だからさ」
「そうなんですか! 攻略前にしっかり準備するなんてすごいです!」
ダンジョン近くでダンジョン情報が調べられる場所というと、シンジュクダンジョン資料館だろうか。
あそこは一般に出回ってない情報が多い分、データ化されてないものばかりで調べるのはかなりの手間がかかってしまう。
わたしとのダンジョン攻略のために風流さんががんばってくれていると思うと、胸があたたかくなる。
「ま、まあ単なる気まぐれだけどな。あ、もちろん実際にモンスターを倒したり宝箱の中身を回収したりとかは朔と一緒にやるから心配しないでくれよ」
「あはは! ありがとうございます!」
さすがの風流さんでも、資料館からダンジョンのモンスターを倒すのは無理だと思うけれど、思うけれ、ど……いや、やっぱりできるかもしれないけど、そんなことは疑ってない。
意外と律儀な人だなぁ、と感心していると、通話口の向こうから「バキン」という派手な音と、「あ、やば」という風流さんの焦った声が聞こえてきた。
「ど、どうしたんですか?」
「い、いや。ボスのミノタウロスは大斧を使う、ってメモしてたんだけど、嘘になっちゃったかも」
思ったよりも大したことのない理由に、わたしはくすっと小さく笑う。
未整理のダンジョンの情報は、間違いや矛盾も多い。
調べていくと前の資料で書いていたことが勘違いだった、なんてことはざらだし、その逆だってある。
普段あれだけ豪快にダンジョンを進んでいる人がそんな些細なことで戸惑っているのを知って、ちょっとだけ楽しくなってしまった。
「大丈夫ですよ。ダンジョンなら、それくらいの食い違いはよくあることです。それに……」
どうせ〈氷神覚醒〉で一瞬で倒すんですから、と言いかけて、さすがにやめておいた。
ないとは思うけれど、もしかすると〈氷神覚醒〉が効かなかったり使えなかったりする状況が来るかもしれない。
そうなったらいくら風流さんでもAランクダンジョンの敵は厳しいだろうし、その時にこの情報が役に立つ可能性もゼロじゃないはずだ。
「それより、朔は今日が試験だったんだろ? どうだったんだ?」
口を閉ざしたわたしをどう思ったのか、今度は風流さんの方から声をかけてきた。
ずいぶん気にかけていてくれたようだけど、今回に限っては心配無用だ。
だって、
「おかげさまで、バッチリでした!」
試験は好感触だったし、一応の裏付けもある。
なぜか必死な教官に頼み込まれ、午後は受けるつもりのなかった「攻撃魔法」の試験も受けることになったけれど、「その結果に関係なく退学の話はなくなるだろう」とその時にこっそり教えてもらったのだ。
わたしが力強く答えると、通話口の向こうの風流さんの声も弾む。
「そっか! やったな、おめでとう!」
「はい! ありがとうございます!」
その素直な賛辞に対してだけは、わたしもなんの迷いもなく感謝の言葉を返すことができた。
それだけで幸せな気分になってしまったけれど、そこでわたしは一つだけ、聞いておかなくちゃいけないことがあるのを思い出した。
「あ、そうだ。ちょっと風流さんに聞きたいんですけど……」
「ん? ボス部屋の宝箱だったら、罠は毒ガスで中身はなんかの魔導書みたいだぞ」
「そうなんですか!? ……じゃなくて、それも気になるんですけどそうじゃなくて、風流さんがいつもわたしにかけてくれる補助魔法のことです!」
「ん? ああ、〈プリンセスガード〉か」
「それ! それです!」
この〈プリンセスガード〉というのは、風流さんが冒険に行く前に必ずわたしにかけてくれる補助魔法だ。
成功率が低いのか、かけてもらっても何も変わった気がしないけれど、お姫様扱いしてくれるのがなんだかうれしくて、いつも何も言わずに受け入れていた。
(でも本当は、きちんと発動していたとしたら……?)
今回のパーティ試験。
わたしの背後に回り込んだ教官の不意打ちが、突然出現したバリアに防がれた。
わたし自身には、その原因に心当たりはなかった。
その中でかろうじて心にひっかかったのが、〈プリンセスガード〉という風流さんがかけてくれた謎の魔法だけ。
……冷静に考えると、ありえないとは思う。
通常、補助魔法は長いものでもその効果時間は数十分程度。
そして、最後に風流さんがわたしに魔法をかけたのは、少なくとも数日は前だ。
その時の魔法がまだ残っているなんて、そんなことがあるはずない。
「その、〈プリンセスガード〉の効果時間って、どのくらいなんですか?」
なのに、気付けばわたしはそんなことを尋ねていた。
電話の向こうの風流さんが、少しだけ考え込むのが分かる。
「効果時間、か。あれは時間で少しずつ効果が減衰する以外にも、強い攻撃を何発か食らうとすぐ割れちゃうんだよ。だから、正確には分からないけど……」
「けど?」
期待と不安が入り混じるわたしの言葉に、風流さんはあっさりと答えた。
「――何もなければたぶん、二、三ヶ月くらいはもつんじゃないかな?」
衝撃が、頭蓋を駆け抜ける。
ありえない言葉を聞いて、でもこの人に限っては「ありえない」なんて「ありえない」と、わたしの心が訴えていた。
風流さんの〈プリンセスガード〉の詠唱は、実はきちんと成功していて……。
誰も、わたし自身でさえもわたしに魔法がかかっていると気付けなかったのは、きっとあの魔法が「攻撃を受けそうな時だけ出現する」魔法だから。
そう考えると、全てのつじつまが合ってしまう。
(……そう、か。そうだったんだ)
わたしはそこで、ようやく気付いた。
試験の最後、わたしのピンチを救ってくれたのは、風流さんだってこと。
それから……。
「――風流さんはやっぱり、すごいです!」
この「すごいです係」なんていうヘンテコな役割に、わたしはもうどっぷりはまってしまっている、ということに。
(でも、しょうがないよね)
一対一で直接教官と戦ったり、そのおかげでたくさんの人に褒められたり。
それは新鮮な経験だったけど、だからこそ思い知った。
わたしは誰かに褒められるより誰かを褒める方が好きだし、自分で先頭に立って戦うより誰かが戦うのをサポートする方が好きだ。
そして……。
その「誰か」がこの底抜けに強くて優しくて、でも少し抜けている最強の氷魔法使いさんなら、きっとこれからもっともっと好きになれると思う。
だから……。
「お、おう、ありがとう。なんだか朔は、すごいです係が板についてきたな」
照れ隠しのようにそう口にする風流さんに、わたしは、
「――だって、天職ですから!」
と、迷いなく言い切ったのだった。
いい話だなぁ(自画自賛)
次回更新は明日!
と言いたいんですが「主人公じゃない!」の方の書籍化作業が……
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